水底の夜光虫 | ナノ


▽ ボタンは弾け飛んだ


ただでさえ終わらす為に存在してんのに直すなんて面倒なことやってられっかっての。
得意と言っても物質形成は本……型録(カタログ)がなければ面倒くさくてやりたくないし、第一私が正気の人格を作り上げたとしてそれはまた平行世界から来たメルツとは別の人格だということになり根本的なものが解決したことにはならない。
ただ臭い物に蓋をしただけだ。
それに……

「それに?」
「壊したくない物のレプリカがあるのなら、泣き声や恐怖や絶望に染まった表情、血に濡れた顔や傷だらけの姿が見たいってのが【おわり】故か私の性分なんだよねぇ」

みんなの顔が青ざめてたり険しくなってたり。
素面なメリーだけは流石人の心に槍突き刺してグリグリ回すように傷口広げるような性格、ドSの極み等と褒めてんのかよくわからないことを言っている。
オリジナルは大切にする。
1つしかないものも大切にする。
暖かい、安心できる者には笑顔で幸せに生きててほしいと思う。
けれど反面、それが壊れる姿が見たくて仕方がない自分がいる。
壊れる瞬間の美しさとでも言うのか、胸から喉を伝い、なんとも言えない高揚感が笑い声となってこみ上げてくるのがたまらない。
項の辺りがぴりぴりと熱を持って頭の中が熱くなって視界に線香花火のような火花が飛び散り、身体中の関節に心地よい重さと怠るさがやってくる。
絶望の、焦燥の、恐怖の顔が自分の手で作られていると思うとエクスタシーまで感じてしまう始末だ。

この感情が理解されることはないだろう。
理解されようとも思わない。
私自身常に抑え込んでる感情なのだから。

「中身がさぁ、ヤンデレメンヘラサイコパスクソ生ゴミ野郎だってわかってるから傷付けやすくて助かるよ。絶望に染まった表情で米一合はいける」
「え」
「……俺、そんなふうに思われてたんだ……ま、事実なんだろうけどさぁ」
「認めんのかよ♪」
「元の世界のエルちゃんによく言われてたからねぇ」

RPGをまともに食らってボロボロになったメルツが足を引きずりながら戻ってくる。
額から血が流れ、片方の上瞼を潰すかのように深い切り傷が刻まれており頬骨には青痣、首は焼け爛れてセーター生地のベストとワイシャツは着弾したであろう部分が弾けて破れていた。
損傷は服だけ?とディーが首を傾げている。
そう、着弾したであろう部分には一切の傷もなかった。
私が知ってるメルツは致命傷が無効化する体質だったからこのメルツもきっとそうなんだろう。
殺すには死に至らない細かな傷を幾重にも幾重にも重ねなければ、それかゆっくり首を絞めるか、反対に細胞1つ残さずに一瞬で全身を消し去るか、そうしなければ殺せやしない。
だからあいつを足止めするには弱く多重にでいいのだけど、それを知らないバンが魔力を使って両脚を引きちぎった。

「あ、ははは!怒った?なぁ怒ったの?ひ、はは!!安心しなよ!俺の世界ではエルちゃんはちゃあんと生きてたよぉ!!君が死んで、エルちゃんが不死者になって!魔神族を怨んで、人間を怨んで壊れちゃってたけどさぁ!!」
「!!、てめっ!」
「脚を引きちぎってくれてありがとう!分が悪いし俺は逃げるよ」

綺麗に元に戻っている脚でひょっこり立ったメルツは立ち上がるついでに掴んでいた水晶で爛れた首を刺した。
上がる小さな2つの悲鳴。
それに視線を向けたメルツは薄気味悪い笑みを浮かべて刺した箇所から次第に消えていった。
元の世界に戻ったのか、はたまた死者の都から出て行っただけなのかはわからない。
わからないけど1つ思い出したことがある。
それを実行しようと手のひらを上に向けて物質形成を発動させようと思ったら……

「クレイオス様!指先が!!」
「プゴオォオ〜!!オ、俺の耳がねぇっ!!」

私の指先が泡のように消えていってるのに気付いたエリーと、自身の耳が消えていってるのに気付いたホークを筆頭にメリーとディーが騒ぎ始める。
うーん……自分が言うのも何だけど緊張感のないやつらだなぁ。


「死者の都が本来ここにいるべきではない生者を拒絶し始めたようね。会えてよかった……バン」
「またな…エレイン」


カシャッ


「!?クレイオス!今撮ったでしょ!」
「ん、撮った。現像したら焼き増ししたげる」

作ろうと思ってたものとは路線変更させて違うカメラにし、バンとエルのスキャンダルをパパラッチしちゃったり。
いやまさか、2人がそんな仲だとはおかん知らんかったよ。
気付いて真っ赤になったエルに胸をぽかぽか叩かれてカメラ奪われそうになったから型録に仕舞って、そのまま抱き締めてしまえば綺麗に収まってしまうエル。
けらけらと笑うバンと私に性別の概念がないと知っているのか、ああああ!!と叫ぶエルの兄ちゃん。
息子の嫁さん(予定)寝取る気はないっての。

頭ぐりぐり撫で回して解放してやればバンが鳥の巣みてぇ♪とエルの頭を指差して笑う。
エルは頭を押さえながら真っ赤になって両手が塞がってるからってバンの胸に頭突きを繰り広げている。
意外なことにエルのことを馬鹿にしたからってバンに突っかかりに行くと思ってたエルの兄ちゃんはそれを寂しそうに見ているだけだった。
……メルツといいバンといい、なんか面倒見なきゃいかんやつ私ん周りに集まってね?

「暫く会えなくなるんだからさ、しんみりして別れるんじゃなくて最後まで楽しかったって思い出詰め込んでやりなよ」
「……え?」
「生前会った時に兄ちゃんいなくなって独りで寂しい、つってたんだよ。あんだけいちゃラブしてりゃあ2人がいい仲で入り辛いってのはわかるけどさぁ、やっぱ血の繋がった兄妹と愛しい人とでは埋まる心のスペースが違うもんなんだよ気付けよバーカ」
「え、えぇ?!」

動こうとしないエルの兄ちゃんを盾にするみたいに脇の下から腕を通して肩を固定し、宙ぶらりんにさせたままの状態で2人に突撃をかます。
あ、盾みたいじゃなくて盾だわこれ。

「姑と小舅も混ぜやがれ」
「!?、こ、小舅!?」
「姑っつー割には見た目若すぎんだろ♪」
「あれだ。若作りしてるから。毎日アルモカの葉でパックしてっから」
「ぷっ、あはははっ!!」




笑顔で別れられるのなら



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