水底の夜光虫 | ナノ

▽ 語り部は人間、聞き手は妖精


「ねぇ、どうして貴方はずっとここにいるの?私が来ると貴方はいつも先にここにいるわ」
「僕はね、僕の奥さんがここにいることに気付いてくれないかな?って思って待ってるんだ。そういう君は?」
「私?私も待っているの。一度だけでも、一目だけでも会いたいの」
「奇遇だね。僕も一目だけでいいんだ」


「ねぇ、貴方はどうして死んでしまったの?」
「僕はね、情けない話だけど奥さんの代わりに戦争に出兵して呆気なく殺されちゃったんだ」
「情けなくなんかないわ。奥さんを守ったのでしょう?」
「……そうかな?あ、奥さんだけじゃないよ。身籠もってたから」
「赤ちゃんも守ったのね!だったらもう立派なお父さんじゃない!!」
「なんだかその呼ばれ方照れちゃうなぁ」


「どうしたの?元気ないのね」
「うん……一足先にね、この前話した赤ちゃんを転生させてきたんだ」
「この前の……!!どうして!」
「もうタイムリミットが近かったからね、このまま自立していない魂をほかっておいたら陰の者になっちゃうから」
「違うわ!だって、守ったって!!」
「同僚に裏切られてた……奥さん、子供に影響が出ないようにって力抑えてて……俺の奥さん人間じゃなかったから、嫌われてて、刺されて!!」
「ひどい……」


「取り乱してごめん」
「いいえ……私こそ辛いこと思い出させてごめんなさい」
「いやいや、なんともまぁ、こんなおっさんが年甲斐もなく泣き喚く汚い姿なんて見たくなかったでしょ」
「……おっさん?」
「うん。僕、これでも享年21589歳で死後30年前後経ってる君の先輩だよ?」
「……人間?」
「うん。僕の世界では力のある人間は不老だから。神様がご近所に住んでたりする面白い世界だったよ。君が生きていた世界は違うの?」
「人間は勿論、私みたいな妖精や巨人もいたけど近所に神様はちょっと……」
「ちなみに奥さん、はじまりの世界から生きてるから六兆年くらい生きてるかな?見た目ただのヤンキーなんだけどね」
「……私、貴方の奥さんに会ってみたいわ……」


「お、今日も来たね」
「ええ、誰かに会いに行くのって楽しいものなのね」
「うん、とっても楽しいよ。僕もね、」
「毎日奥さんに会いに行ってた?」
「ありゃ、わかっちゃった?そう、僕の一目惚れでね、当時お世話していた子を言い訳に使わせていただいてまだ顔見知り程度だった奥さんに会いに行ったもんだよ」
「その時の奥さんの反応は?」
「うわ、また来やがったよこいつ。ガキだけ置いて帰りやがれ」
「……奥さん口が悪いのね」
「ひねくれで意地っ張りで怖がりで甘え下手で寂しがりなだけだよ」


「こんにちは、早速だけど昨日の続きを聞かせて!」
「おおお……女の子は恋愛話が好きだねぇ」
「いいえ、貴方の惚れ気話が面白いのよ」
「あはは……んーと、そうそう、奥さんが妊娠を教えてくれた所だったね。真っ赤になってね、聞こえないくらいちっちゃい声で孕んだ。責任取れ。って言うもんだから僕、幻聴だと思って放心してたの。そしたら返事返すの忘れてたのを悪い方に取った奥さんが部屋に閉じこもって結界まで張っちゃって、何やっても開かないドアの前で僕、泣きながら土下座してお願いします産んでくださいって叫んでたの。そしたら私なんかが孕んだガキがお前の血縁になってもいいのか?って。いいに決まってんだろ!って怒鳴っちゃったよ」
「奥さん、不安だったのね」
「うん。いろんな責任押し付けられて常にいない扱いか化け物扱いされてた人だから自分には幸せになる権利なんてないと思ってたみたい」
「幸せになることに権利なんてないのに、ばかね」
「そう、天才奇才なのに時々馬鹿になる所が可愛かったんだ」


「子供の名前は決まってたの?」
「うん。女の子だったら『    』で男の子だったら『  』」
「……え?」
「どうしたの?」
「私の名前、    って言うの。それに私の会いたい人の名前は  。彼が私に会わせたいって言ってくれてた人はクレイオス
「それは……僕の奥さんの名前だ!……偶然?いや、予定調和、なのか?」



「きっとそろそろね」
「うん。僕は先に死んだこと怒られるかも」
「ふふっ、私はどうかしら……もう興味もなくなって忘れられてたらどうしよう」
「大丈夫だよ、きっと。なんなら僕と浮気しちゃう?」
「奥さんにもう一度殺されちゃうわよ?」
「彼女は絶対幼気な若い子を誑かして!って君の味方をするだろうなぁ。で、  君も君の味方だ。あれ?弱いもの虐めなフラグが……」
「逆に奥さんが浮気してたらどうするの?」
「……いや、僕が死んだ時点で彼女は僕から解放されたんだ。逆に新しい道を進んでいてほしい」
「貴方は心が強いのね」
「いいや、僕は臆病者で未練がましいやつだよ。会って忘れられてないか確認して、男がいないか確認して、あわよくば心の中に巣くおうとしている嫌らしいやつだ」









現世ではない場所で待ち人に会えることを望む二人。
死して行く場所は皆同じ。




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