水底の夜光虫 | ナノ

▽ 親を知らない親子の噺


あ…ありのまま、今起こった事を話すぜ!

私は久し振りに降りた人里で露天商見て回っていたんだが急に日陰になったと思ったら目の前にレザージャケットに隠れきれてない割れた腹筋が迫ってた。

な…何を言っているのかわからねーと思うが私も何を言っているのかよくわかっていない……
とりあえず自分の体質が擬人化してくれた暁には有害無害の基準は何なのか聞きたい。

ゴキンという腰からの嫌な音と流石に逸れてくれなかった地面に後頭部をぶつけて私は意識を失った。











「おいクソガキ、死ぬのか?」
「あ?なに私の名前名乗ってんの?」
「はあぁ?何で私が、ッ……あぁもう、じゃあくれてやるよ、『  』。私にはネーミングセンスなんて皆無だが文句言ったら殺すぞ」







目が覚めたと思ったらベッドの上で銀髪紅目の男を押し倒していて、それを女子供それに家畜に見つかったっていうなんとも形容しにくい場面だった。
男は腕を纏めて頭の上で拘束されているのにマゾなのかずっとニヤニヤ笑ってる。
とりあえず自他共に認める寝起きの悪い私が何かやったんだろうなとは思うが、そうか。

まぁ、寝ようか。眠いし。

「いや寝んのかよ!?」
「黙れ家畜。臓物掻き出してモツ鍋と余すとこなく中華料理にすんぞ」
「ひぃ!お、俺は食用じゃねー!!」
「黙れ言うたけ……?なんだ、この世界にも人語を操る動物いるんだ」

寝れれば草原でも荒野でも男の上でも寝れるからと固い胸筋を枕にしたまま、若干覚醒しかけてきてる頭を動かして子供の足元でフゴフゴ言ってる豚を再確認して喋ってるという事実に気づいた。
そういえば豚って脂肪率15%なんだよね。
この枕とどっちが上だろうか。

「この世界?」
「んー?そうそ、私オシゴト嫌んなっちゃって世界出して来ちゃったのよ。つーかお宅らとこのオニイサンどちら様?」
「……なぁオイ、あれ頭打って気絶したんだろ?打ち所悪かったんじゃ……(コソッ」
「でもダナ先生は傷どころか砂1つ付いてないって……(コソッ」
「聞こえてんぞ豚丼に包帯女」

誰かを聞いた辺りから私の下でもぞもぞ動き出した男を解放(したら抱きつかれた。骨が軋んでる気がしなくもない)し、胡座をかいて子供らと向き合う。
耳元で名前呼ばれまくってるけどとりあえず無視しよう。
すまん銀パ野郎、マジで君が誰だかわからない。

ゴロゴロ喉がなりそうなほど私の頭に頬擦りする銀パ野郎に苦笑を浮かべる子供君はたむろしていた出入り口から私が寝ていたベッドまで近付いてきて、それから外に向かって何か合図を送ってる。

「俺はメリオダス。で、この豚がホーク。今顔真っ赤にしてるのがエリザベスで外にいるのがディアンヌ。それからお前を拉致してきた──」
「なぁ、お前の名前くれ♪」
「──あ?」
「……?」
「俺の名前はクレイオス。盗られたかなかったら他の名前をくれよ♪」

何言ってんだお前……なんて呟きが聞こえる中振り返る。
一つの椅子と机、それにベッドしか置けない狭すぎる部屋での読書は専らベッドの上だった。
習慣となってしまっているのか、食い物にも生活用品にも困っていないのにそれでも盗み出してくる血の繋がりのない息子は読書中だけは静かに私の背中にくっついて興味がないであろう書物に目を通していた。
構ってほしいけど捨てられることに怯えてたあの目と男の目が被る。

「はあぁ?何で私が、ッ……あぁもう、じゃあくれてやるよ、『バン』。私にはネーミングセンスなんて皆無だが文句言ったら殺すぞ」
「〜〜〜♪クレイオス!」
「いやすまん。無駄にタッパ伸びすぎなのとあれから何年経ってるのかわからんかったからとっくに耄碌ジジイになってるか、くたばって墓ん中かと思ってたし」

バンだ。バン。
よく考えたら配色も一緒だし目つきも犬歯も一緒だった。
ちゅっちゅと顔面に降り注ぐバードキスを躊躇いなく受け入れ(外野からは悲鳴が上がったが)私も頬に一つ。

覗きが趣味の知り合いに獣の親子のようだと称されたこともあったが、普通の親子というものを知らない私達にとってはこれが普通の愛情の表現の仕方。







そんな感じで始まる親愛と慕愛と友愛の違いがわかってない(若干マザコンな)バンと永遠を生きてきてやさぐれ気味の(親馬鹿)クレイオスの物語



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