Sorrow in the Deck
何かを変える為の犠牲


「ちょっとムリさせ過ぎたみたいだな」

ジタンが何か言ってるけど、正直眠たすぎてどうでもいい。
ビビが起きたんだから代わりに寝てもいいだろうか。

「どうしたみんな?黙りこくっちゃって!無事に3号を振り切ったんだ、もっと喜ぼーぜ!」
「……南ゲート、あれでは当分動かないわ。ジタン、私……大変なことをしたのね……?」

いや、眠いだけっす。
空に浮かぶ雲を眺めながら私とは違い、深刻そうな声色で訊ねるダガー。
今更何を言ってるのか。

裏は盗賊団だったから(よくはないが)よかったものの、もし普通の劇場艇に忍び込んで見付かって、あんな風に壊されてたんじゃアレクサンドリアの信用もなくなるし(劇団員から広まる噂の速さを舐めちゃいけない)、カーゴシップジャックしちゃってるし、元々何があっても国を出ると私に言い、手助けしてくれと言ったのはダガーだろって話よ。
私が知ってる砂漠の殿下は状況を変える為にもっと凄いことをやらかしてくれてたって父さんの友人達から聞いてたぞ。

本人に直接聞いたら上手く誤魔化されたけど。

「【何かを変える事が出来るのは、何かを捨てる事が出来るもの】」
「え……?」
「【何一つ、リスク等背負わないままで何かが叶う等、ありえない。】かつて自由を奪われた人と、大切なものを奪われた人から聞いた言葉だ。意味は言葉通り。二人共、それなりの犠牲を出してきたと言っていたが、元より覚悟の末、振り向きはしないとも言っていた」
「……」
「まぁ……つまり、こんな大事になるなら城から出なければよかった、なんて考えてたらドタマぶち抜くぞ、ってことで。長文話したら眠くなった。おやすみ」

言う分だけ言って寝ちまったエフ。
言い方はキツいけど、一応励まそうと思って言ったんだよな?
一々言葉の端々が悪くなるのが残念だけど。

てか何年も見てきたけどブランクがいないとホント自由だな。
背中にライフル、腰に銃。
右手に刀持って、左腕で立てた膝抱え、その上頭にシュトラール乗せたまま寝るとか器用にも程がある。
武器商人とか言われても納得できそう。

あーあ。
このシュンとした雰囲気のまま離脱してほしくないんだけどな!

「リンドブルムの技術ならすぐに直るって!大丈夫!!」
「何が大丈夫か!カーゴシップはガタガタ、積み荷はなくなり、南ゲートは破損!剰え、この自分が盗賊の片棒を担いでしまうとは……」

俺に当たってたはずなのにいつの間にか自己嫌悪に陥ってるおっさん。
何でこうもアレクサンドリアの人間は堅物ってか、真面目腐ったやつが多いんだ……
もっとさ、これを機に新しい技術を取り入れるかも、とか楽観的な方に考えられないのかね。
そんなに背筋張って生きてても息苦しくないのだろうか。
ビビもどっちかって言うと真面目タイプだし……超が付く程楽観的(てか客観的)なエフを起こしてもいいだろうか。
ヘルプ、ディレーネさん。




ぶっちゃけスタイナーの馬鹿でかい忠誠の儀の言葉で起きた。
クソ煩ェ、とか思っても撃たなかった自分を誉めたい。
いつの間にか隣に三角座りしたビビがいたことに若干驚きつつ、3人には聞こえないように小声で吹っ切れそうか?と聞いてみる。

「エフ、僕と……あの黒魔道士って呼ばれてた人達って……おんなじ…なのかな?」
「……」
「ビビ殿も妙なことを言われますな。何を気にされているのか、自分にはわからないのですが……」
「……『わからない』」

げ、スタイナーに聞かれてた。
でもまぁ、私にはこの問い掛けの意味がわからないからわかる人に任せたいのだけど。
内緒話をしていると勘付いてくれたスタイナーも小声で話してくれるから二人きりで会話してる彼らには気付かれてないし、いいか。

「ビビ殿はビビ殿であって彼らは彼ら、ではありませんか?一体何の事を……」
「スタイナーのくせに良い事言った、だと?!」
「自分のくせにとはどういうことでありまするか!ディレーネ殿!」
「!?起きてたのかよエフ!」
「寝てる。悔い無く生きたやつの勝ち
「エフ?」
十人十色。ビビにはビビだけの生まれてから死ぬまでの物語があるだろ?

エフ、また寝ちゃった。
何時も霧みたいに目に見える魔力を身に纏っているのに、今はない所為かな?
ジタン達には見えないみたいだけど、僕には見える。
黒魔道士って呼ばれてた人達はどうだったんだろう?
もし、本当に僕だけにしか見えていないのだとすると、それが僕は僕ってことなのかな?

僕だけの物語……おじいちゃんに育てられて、お芝居のチケット買ったけどそれは偽物で、屋根の上を渡ってパックとお芝居見てたら間違えて劇場艇に乗っちゃって、魔の森では魔物に捕まって、今度はお姉ちゃんを助けてそれから……

そっか。
僕、なんとなくエフとおじちゃんの言葉の意味がわかったよ。

エフの様子を見に来たジタンはチェッって言った後、僕を見て飛空艇の先端を指差して笑った。

「リンドブルムの城下町は飛空艇から見ると気持ちいいんだぜ!ほら、行くぞ!」
「うん。あ、シュトラール」
「ギィ」

こうやって見て、聞いて、体験して僕が、僕の物語ができていくんだね。


僕達が乗っている飛空艇よりもおっきな飛空艇でさえ、ちっちゃく見えるくらいお城は大きかった。


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