Sorrow in the Deck
抜ければ天国当たれば地獄


「進路反転であります〜!姫様!今すぐ舵を戻してください!!」
「ど、どうしたの!?」
「先の黒のワルツめが、妙な飛空艇に乗って後方から迫ってくるのであります!」

あ、さっきのおじゃる爺、飛空艇乗っ取られたんだな。
確認の為に操縦室から走り出て船尾に向かうジタンを横目にビビの位置も確認しておく。
何を思っているのだろうか。
縁に引っ掛かっている彼らの帽子を見たまま動かない。

「あれは、何を仕出かすかわからん状態でありますっ!」
「う、ウソ……どうしよう!?」
「ちょい待ち」

どうしようとか言いつつ思いっきり舵を回そうと持ち方を変えるダガーの手に手を被せて止めさせる。
その舵の切り方だと固定してない荷物が、もれなくビビも吹っ飛ぶ。
てか、3号の操る飛空艇と正面衝突する可能性だってなきにしもあらず。
こちとらパワー勝負のボロカーゴシップなんだからスピードがそれなりに出ている今、少しでも引き離して南ゲート使って逃げ切るのが一番だろ。

戻ってきたジタンも同じ考えなんだろう。
南ゲート行きの指示を出している。

「いい加減なことを言いおって!ゲートが閉じたらどうするのだ!?」
「パワーだけのでっかい飛空艇が、小回りの利く小型艇を躱せるかよ!!あの3号を避けるのは無理だ!だったら逃げ切る、閉じる前に潜る!それに賭けよう!エフ!」
「オーケィ。スタイナー、ダガーを死なせたくなかったらそのレバーで出力最大にして。私は限界まで魔力上げるので忙しいから」

とは言ってもちゃんと詠唱するだけなんだけどね。
詠唱することで集中力も上がるし、ね。
……こんなこと考えてる時点で集中もクソもヘッタクレもないけど。



操縦室から出て目を閉じ、指輪がはめられた左親指に下唇をつけて小声で詠唱を始めるディレーネ。
彼女を中心に魔力の風が巻き、それは段々と強くなっていく。

きっと今、話し掛けてもディレーネは気付かないんだろうなとジタンは初めて見たここまで魔力を上げる彼女を見てそう思った。
普段魔力が弱いのは父親からの遺伝だと言っているディレーネだが、本来の彼女は彼女が知らないだけで母親譲りの尋常じゃないくらい膨大な魔力を持っている。
ただ、彼女の「詠唱めんどい」といった考えが全てを無駄にしているが。

詠唱終了を機に目を開けたディレーネはそのまま背負っていたライフルをゲートに向けて構え、

「ストップ!」

撃った。

魔力が込められたお陰で飛距離が伸びた銃弾は、本来の威力を見せ付けるかのように着弾した箇所に減り込んで南ゲートを淡い薄緑のベールで包みこむ。

「流石に対象物がでか過ぎた。最低10秒、最高20秒効果が続いたら拍手モンだぞ」
「勝負はその間か……!!」
「やべっ」

カーゴシップにヘイストかけた方がよかったかも。
風圧に負けて大破する確率も高いけど。
私達の上スレスレを3号が操る飛空艇が飛んで行く。
神風特攻やってくれる気はないみたいで安心だけど、さっきの戦闘を根に持っているのか、しつこく攻撃していたビビを狙っている気がする。

自分に影が差したことで気付いたビビが帽子から目を離す。
その一瞬だった。
小型艇が起こした風の風力に巻かれて帽子が飛ぶ。
目で追うビビ。
手を伸ばしたけどとどかなくて……

旋回して再び仕掛けてこようとする3号が雷を放ち、対するようにビビが炎を放った。
ん……?
今、ビビ詠唱したっけ?
詠唱なしであの威力、それに比べて暴走してるっぽい3号の雷の威力は弱く、炎に圧倒されて谷底に落ちて行く小型艇。
喜ぶのも束の間、魔力を使い果たしたビビがペッチョリと俯せに倒れた。
同時に私の腰も抜けた。

「ジタン!ビビを回収しろ!ストップが切れた!」
「なっ!まだ10秒経ってないだろ!?」
「阿呆、25秒持ったぞ」
「腰抜けた状態でふんぞり返られてもなぁ……」
操縦室の外壁に凭れ掛かってて威厳も何もないことぐらい自覚してるさ。

動きだしたゲートの隙間を抜ける時、ちょっと端が擦れた。
……これ、ストップ切れるのが1秒でも早かったら潰れてたよね。

全速力で駆け込んできたボロ船に驚いた周りの飛空艇が少しグラついている。
この数十秒に巻き込まれるなんて、タイミングの悪い人達……

船体の揺れが激しい所為でビビを抱き抱えたままその場から動けないジタンに注意を払いつつ、出口となるゲートを確認した、が、どう計算してもこっちもギリギリ通れるかそうでないかの所だろう。
しかも私でもやりたくない程のギリギリ感。

「(あれ、ダガーの操縦で通れんの?)」
「っ、しつこいなぁ!あいつ!!」
「え?まだ来てんの?」
「前!回り込まれた!」

ほんの一瞬、後ろを向いていた時に回り込んでいたらしい。
なんかバチバチ言ってんなー、とか思ってたけど前にいたとは。
3号に気を取られた所為でジタンの腕からビビが抜け飛ぶ。
気付いたジタンがビビの襟を持ってなんとか落ちるのは防いだが、ビビは完全に宙吊り状態。
ジタンは上半身投げ出すといった危険な状態に。
やっぱりビビを狙っている3号は、ビビの隣に並んで片手に雷を溜めていた。
今やっと小型艇がどんな形をしているのか見えたんだが、どうも見た目より威力を重視したようで操縦席の真後ろに剥き出しの状態でエンジンが積まれている。
あれだったら間近でライフル撃ち込めば貫通ついでに雷によって引火、爆破ぐらいしてくれるだろう。

ライフルの弾は残り5発。
それまでにはあいつを潰さなくては。

揺れに乗じて一気にジタンの許まで飛び(すまん、脅かすつもりはなかった)、何とか戻った腰を重心にエンジンに撃ち込んでやった。
想定通りに引火し、小さな爆破を繰り返し起こし始めた小型艇に、何事かと後ろを振り返った3号の後頭部を思いっきりライフルのグリップ殴り飛ばしたら、横で見ていたジタンにえげつないと呟かれてしまった。
仕方ないだろ、とどめ刺しとかないとまたあれは来るぞ。

ってか撃ったばかりの銃身(しかも銃口に近い部分)持った所為で掌焼けた感覚があるんだけど……
そのまま横にスイングしてビビを掬い上げるように助けたら荷物扱いすんなって怒られた。
引き上げるの手伝ったのに理不尽だ……
そしてデジャビュ。

操縦不能となった小型艇は3号を乗せたまま回りながら落ちて、私達はその爆風に押されるようにしてゲートを抜ける。
結構ギリギリだったけどなんとか生還できたって感じ。

正直に行っちゃうと、取り敢えずエーテル使っていいっすか?ってくらい精神的に疲れたし魔力もない。
でももう目の前にはリンドブルムだし、後ろには煙の上がる南ゲート。
これ以上何か起きなければ一直線に家に帰れんだよなぁ……

「(あの顔は直帰する気満々だな……)」

そんなことを私を見ながらジタンが考えてたとか、知らない。


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