Sorrow in the Deck
お嬢さん、針路はどちらへ?


エフの言った通り3号はこれまでのやつら以上にプライドが高く、弱いながらに諦めず何度も攻撃してくるビビに痺れを切らしたらしい。
ビビに向かってサンダガを打ち込むも、すぐにエフが魔力を込めて発砲するから無駄に終わる。

その隙をついて俺が後ろに回り込んでダガーを振るが、身体を捻って避けられる。
でも、元から俺は3号を攪乱させ、上手いことおっさんの射程距離まで誘導させることが目的だったから悔しくも何ともない。

「覚悟ッ!」
「グッ!」

俺に気を取られておっさんが剣を振り上げたことに気付いてなかった3号は避けきれないと判断したのかそれを白刃取りで受け止めた。
すげっ、あれホントにできるんだ……
押し返しされそうになるも耐えるおっさんを援護しようにも、下手に手を出したら勢い余って斬られたり、3号に暴れられ、押されて飛空艇から落ちる可能性だってある。

ビビの魔法に頼りたい所だけど、トランスが解けて疲労に襲われているのか肩で息をしてるし、エフの銃だって無限に撃てる訳じゃ……

「肩借りるよ」
「うわっ!」
「エフ!?」

突然肩に乗った重みで倒れる俺。
辺りを見回しても原因と思われるエフは見当たらない、が、ポカンと見上げたままの体勢で動かないビビに見習って上を見たら、いた。
俺を踏み台にした(と、思われる)エフは、踵落としの体勢のまま落ちてきていた。

丁度落ちるだろう位置にはおっさんと3号が対峙したままやり取りがまだ続いている。
3号の脳天に直撃したとしても決定的なダメージになるとは思えないんだけど……

「スタイナー!限界まで力入れろ!」
「うっ、……ぬおぉぉおぉ!!」
「グッ……ギギッ」
「失せろ!」
「ギッ、ア゙ァア゙ア゙ァァア゙!!」
「「すげ/すご……」」

落下速度で勢い付けて踵落としで剣を斬り込ませるなんて誰もやろうなんて思い付かないだろ。
ってか、諸刃で踵に刃が当たってた筈なのにブーツは切れてないとかどういうことだよ。

肩から腹部にかけて斬られた3号は断末魔にも似た叫び声を上げながら後退り、纏うようにサンダーを発生させている。
視線もずっと彷徨っていて薬が切れた薬物中毒者みたいに手が小刻みに揺れていた。
様子がおかしいと、即座に離れていたおっさんとエフもいつ何があっても動けるようにと体勢を整えている。

「おのれ……、おのれ、オのれ、おのレェッ!我の存在理由ハ勝ち続けルことのみ!!」

その叫びに咄嗟に反応したエフが銃を構えるもそれより早く3号は何処かへ飛び去ってしまった。
とどめはさせなかったものだからきっとまた来るんだろうけど、勝ちに執着してるところを見ると、完全に潰すまで俺達を追って来るだろう。
それこそ地の果てまで。

虚しい存在理由だな、と呟き銃を仕舞ったエフは俺達の方へ振り返り寄ってくる。
正気に戻ったんだな。

「しかし、次から次へと……黒のナントカは何人いるのであるか!?キリがないのである!」
「今ので最後だと思うぜ」
「何故そう言い切れる!?さては貴様……!?」
「ワルツとは、四分の三拍子の円舞曲。さっきのやつは3号。だから三体目のさっきのやつで打ち止めってこと」

一応劇団員でもあるんだから知ってて当たり前だろ。宮廷騎士さん。
と、馬鹿にして言われたことも気付いてないおっさんはまだわからないのか首を傾げたまま唸ってる。
堅物だし、音楽に興味なんて微塵もなさそうだし仕方ないことか。

それにしても、ワルツだなんて名前を付けるってことは舞踏会好きかもしれないってことだ。
……やっぱり黒のワルツはブラネがダガーを助ける為に送り込んできた手先なんだよな。
ってか1号の時もだけど、刺客って言い方の方がなんとなくしっくりくる。

エフも考えるものがあるのだろうか。
3号が飛んで行った方を眺めて…………


何か飛んでる?





3号が飛んでった方を眺めてたら何か小粒に見える物が飛んでいるように見え、思わずそこら辺に転がしておいたライフルのスコープで見てみたら、あれだ。
実は齢88のおじゃるじいさ……宮廷魔術師が小型飛空艇を操作しているのが見えた。
いやもう、色んな意味で怖い。
安全面だとかストーカーだとかドアップに見えてしまった白塗りの顔だとか。
しかも何か喋ってるし。

「見たでおじゃるか?」
「見たでおじゃる!」
「我らの改造黒魔道士兵が!」
「全て敗れてしまったでおじゃる!」
「スタイナーとディレーネの裏切りの所為でごじゃる!」
「でも、元々ディレーネは怪しかったでごじゃるな」
「同感でおじゃる。時々下衆な」



ダァン───……‥・


「なんだ!?何で撃った!?」
「いや、なんか腹立った」

いや全く、不快なもの見せられたよ。
読唇術って便利だけどこういう時には使えたくないね。
さて、不快なものはともかく、追っ手がすぐそこまで来ているのは放ってはおけない。
この距離では無理だろうけど、さっきのが当たっていたらいいなと願いつつ安全運転且つ迅速に南ゲートを抜けてもらわなければ。

……ん?
ジタンと私がここにいてダガーがいないってことは操縦してるのはダガーってことだよね?
今更ながらに恐ろしいなぁ、おい。
多分、見た目が似た彼らが落ちて行く様子を目の当たりにしてしまったのが原因で落ち込んでるビビを慰めるのはジタンが適任だろうし、私はダガーを見に行くことにしようかな。
私が慰めに行ってもミイラ取りがミイラにされそうだし。

「ダガー、操作初めて?」
「そうだけど……もしかしてぐらついてる?」
「いや、よくあの温室育ちでここまで上手に操縦できるな……と」
「ギィ」
「それは褒めてるのかしら?エフ。シュトラールも頷かないの!」
「おっと……女子会の最中だった?」
「「シュトラールは雄だが/男の子ですが?」」
「え!?」

ジタン……今までシュトラールは雌だと思ってたのか……
ダガーに言ってないから何で知ってたかも疑問だけどね。

南ゲートが見えてきた辺りでダガーに話しを振るジタン。
うん、いつ見ても何が凄いのか言い表せないけど凄いと思えるゲートだよ。
誰が山の頂上付近にあんな馬鹿でかい門を作ろうと考えたんだろうね。
しかも霧がギリギリ掠るだけのような所じゃ霧機関のものは時々止まるだろうし……
通るのも腕と度胸がいる。

まぁ、色んな飛空艇の操縦に慣れた私からしてみたら序の口だけど。
今は操縦技術向上より霧を使わない機関の製造の方が楽しいし。


……あぁ、朝(てか夜)早かったし今日はもう寝た方がいいのかもしれない。
折角の和やかな雰囲気だってのに目の前から凄い形相のブリキ野郎が走ってきてる。
なんだ、そんなにリンドブルムに行くのが嫌なのか。
寝てスルーするってのは許されるパターンですかね?


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