Ice Caves 氷の円舞曲 チリン 「っ、!」 「何だ?今の音は?」 飛び起きた私とは正反対にゆっくり起き上がったジタンの横を通り抜けてさっさとまだ行っていない奥へと進む。吹雪でフードが捲れないように進んで行けば、案の定、誰かがいた。 普通、誰かの落とし物や目印だったとしても、もっと風に吹かれて忙しなく鳴るはずなのに、不規則に時間を開けて鳴るそれは機械のものか、手動によるものだ。 「チッ、死んでなかったか……そのまま眠っていれば苦しまずに済んだものを……」 「生憎、どっかの誰かさんに起こされてね。産まれたばかりの命抱え込んでんのも思い出さされたよ」 「この吹雪を起こしてるのはお前なんだな?」 風に流れて声が聞こえたんだろうジタンも参戦しに来た。助かったといえば助かったか。 私の腹の辺りで寒さに震えているシュトラールを抱えたまま闘うのは中々に辛い所があったから良かった。 冷気に混じって吹いてくる殺気に得物を構え、三角帽子野郎に向かって引き金を引くも、経口の小さい片手銃の弾では相手に届くまえに凍らされて地面に落ちてしまう。 鈴を一つ鳴らしてシリオンと言うらしい、氷のモンスターを呼んだ三角帽子野郎がどうだと言わんばかりに鼻を鳴らしている。 な、なんか腹立つなぁ……。私だってライセンス取得してあるから召喚ぐらいできるし。 でも、ただでさえ大きいシリオンで場所取ってんだからこれ以上召喚したら大変なことになるだろう。敵と押し競饅頭とか断固拒否する。 後方に下がって背負っていた対戦車用ライフルをセットしてシリオンに向けて構える。作戦なんてジタンに話してないけど、きっとなんとかなるだろう。 シリオンが攻撃を受ければ即、三角帽子野郎がブリザドで回復しに掛かるのはジタンの先制一撃目で情報取得済みだ。だから私は敢えてシリオンにしか攻撃しない。 回復係の三角帽子野郎を集中狙いしていたなら二人から反撃を食らうだろうが、三角帽子野郎が攻撃できる暇がないくらいに攻撃して、回復に回り続けさせればシリオンの一撃だけで済む。その一撃も私が連撃している所為でとろく鈍く、ジタンは軽々と避けている。 「ジタン、傷ついてないな?」 「全っ然ヘーキ!」 くるん、と宙転して避けるジタンは言葉通り元気そうだ。けれども寒さの所為か何時もより少しだけ動きが鈍い。 と、ライフルの弾がなくなった為一旦物陰に隠れてウエストポーチを漁るが、ライフル用のマガジンが三本しか見付からなかった。ヤバい、足りないことはないだろうけど、無駄撃ちできないくらい少ない。 だけど固まっている場合じゃない。今こうしている間はジタンが一人で頑張ってくれているのだからなるべく早く戻ってやらないと…… 弾もだが、ジタンの体力にだって限界はある。 挑発して、それにうまくのってくれればきっと特攻してくるだろう。 一か八かたけどやってみようか。 「ジタン、何時までこんなただのデカ物とそのデカ物に頼らなければ戦えないガイアを氷河期に導くクズと遊んでやればいいんだ?」 「(挑発露骨過ぎだろ!?てか口悪……)そ、そうだな。身体も暖かくなったしそろそろ終わるか」 「大口叩きおって!!行けェエェエエ!シリオンンンン!!」 頭はそんなに良い方じゃないのかまんまと挑発に乗り、シリオンに特攻命令を出す三角帽子野郎。シリオンもシリオンでなけなしの知能があるらしく、主に悪口を吐き捨てた私に向かって突進してくる。 氷を削りながら突撃してくるシリオン。それと同時にジタンも走りだした。 手のような、刃のような氷の先端を全て私に向けている辺り、私を串刺しにでもしたいのだろう。だけども残念。ボスからもらった火炎瓶を宙に投げ飛ばし、それを私が撃ち抜く方が早かった。 今撃ち出した弾には火の魔力が込められていたから、ただ火炎瓶を割るだけじゃなく引火してシリオンに降り注ぐ。 「グギェエェェエエ!!」 「!、シリオン今回復を!」 「俺の事、忘れちゃいないかい?」 「!!、何時の間グァッ!」 ただでかいだけのシリオンの図体に紛れて三角帽子野郎の背後に回り込んだジタンが斬り込む。 受け身の取れなかった三角帽子野郎は羽根を散らせて消えていった。なんともまぁ、呆気ないものか。 時間は掛かったものの被害はそう多くなかった。強いて言うならシリオンが火達磨になりながら転げ回るものだから辺りの雪や氷が溶けて岩肌や池、仕舞いには滝までが出現し、ジタンがその池に落ちたことぐらいか。 「一人目は倒したようでごじゃるが、他の二人が姫を奪い返すでおじゃる!」 「ぶはっ!エフ、何か言った?」 「……何も?てか早く上がったら?」 「おう。まあいいか……それよりあいつら死んでないよな?」 「温風が流れ込んできてるし凍死はしてないでしよ」 少し温かくなったお陰か、洞窟に入る前のように胸元からひょっこり頭だけ出して外を観察し始めるシュトラール。この子が大丈夫ならどうってことなく今頃起きてでもいるんじゃないだろうか。 「に、してもさっきのやつは何で俺達を殺そうとしたんだ?」 「妥当に考えてガーネット姫奪還って所じゃないのかな?」 「でもあのやり方じゃあガーネットだって危なかったぜ?」 「……あいつの知能指数が低かったんじゃないの?」 取り分け驚きもしなかったけど、あの時確かに聞こえた声はあと二人いるみたいな事を言っていたからもしかしたら頭良いヤツが来るかもしれない。 何処かで聞いたことのあるような声だったんだけど、誰だったっけな? あの三角帽子野郎もビビ以外の人で似たような格好をした人達がいたような気がする…… まぁ、守ればいいだけだからいいか。 「あ、ジタン、エフ」 「おはよ、ガーネット姫」 「あの……何かあったのですか?」 飽きもせず一方的な言い合い(?)をするジタンとスタイナー、それにあたふたするビビに視線を向けながら質問してくるガーネット姫に滝があったと嘘ではない誤魔化しを入れシュトラールに同意を求める。 ピギャ、なんてちゃんと返事をしたシュトラールは偉いですね、なんて言われながらガーネット姫に首もとを撫でられてご満悦だ。 終わらない一方的な言い合い(?)に痺れを切らした私とガーネット姫がビビの手を取り、先に進んで滝を越えた辺りでやっと二人が追い付いてきて、やっと出口が見えた。 先駆けしたい訳じゃないけど、さっきの三角帽子野郎の仲間がいないかチェックする為に逸早く外に出てシュトラールに上空からの警備を頼み、私も周りの蜘蛛のようなヤツや霧の中で何度か見た蛇のようなヤツの討伐に掛かる。 何処からかシュトラールが連れてきた、赤いムーのような子が原石を欲しがってたのであげたりしてジタン達が合流してくるのを待っていれば、何やら嬉しそうにガーネット姫が私に向かって飛び込んで来るじゃないか。 ……びっくりした。 「エフ、エフ。わたくしはこれからダガーと名乗りますのでよろしくお願いします!」 「もしかしたら追っ手が来るかもしれないだろ?そん時の対策ってワケ」 「なるほどね。でも口調が少し固くない?」 「それはエフを見本に頑張、るわ!」 「(ぶっきらぼうな姫様になっちゃったらどうしようか……)」 これは私も口調を改めた方がいいのだろうか。いやでも、今のが性に合っちゃってるからどうにもなりそうにない。 そうやって悩みながら歩くこと数十分、そろそろ少なく感じるようになったマガジンを節約しながら敵を倒し、私達はダリの村に着いた。 「あれは本当に執事のディレーネでおじゃるか!?」 「ディレーネ以外に誰がいるでごじゃるか!それよりあの飛び道具は何でごじゃるか?!」 「知らないでおじゃる!取り敢えず」 「「ブラネ様に報告を!」」 |