傀儡師+ギア

「そればっかりは断りまさあ」
普段は常ににやにやと笑みを張り付けている傀儡師が珍しく、表情険しく否定の言葉を口にした。
それは、マギア真皇国の皇帝、ギアマンテからの取り引きの申し出だった。
『貴様の目的は膨大なものと見た。目的を告げるなら、国を挙げて力を貸そう』
その申し出に、傀儡師は首を横に振ったのだ。
ギアマンテとしては、傀儡師の目的とやらが国の脅威となり得るなら、今のうちに味方側につけておこうという算段だったのだが、そう簡単にはいかないかとちいさく溜め息を漏らした。
「どうせ、アチキの目的を知りたいだけのことでございやしょう」
続いた傀儡師の言葉に、バレていたのかとギアマンテは眉を寄せた。
「それに、先日も言ったじゃねぇですかぃ。アチキはみなさんに傀儡の可愛さを知っていただけたらそれでいいと」
傀儡師も、気に食わないといった表情で続ける。
「ですからねぃ、アナタがたにはアチキの傀儡たちを存分に可愛がって頂けたら、アチキはそれで満足なんでさ」
言外に、それ以上は期待もしてないとでも言いたげな物言いに、これ以上は無駄かとギアマンテは閉口した。
深く踏み込んでこなかったギアマンテに、傀儡師はちいさく息を付いて、首を傾げて見せる。
「用はそれだけですかぃ?でしたらもう失礼させていただきやす」
アチキもあんまり暇ってわけじゃぁないのでねぃ。
傀儡師はそう言って一度頭を下げると、くるりと踵を返す。
その背中に、待て、と、ギアマンテはひとつ呼び掛けた。
「なんでございやしょう」
無感情にそう言って傀儡師は肩で振り返る。
「気が変わったらいつでも来るといい」
告げられた言葉に、傀儡師はローブを翻してギアマンテに向き直ると、肩を揺らしてくつくつと笑った。
「変わらなきゃ来ちゃいけねぇんですかぃ?」
「む?そうだな…、ハルバードに怪談話でもしてからかうくらいなら、いつでもするといい」
ギアマンテの答えに、傀儡師は声を上げて笑う。
「あはは!そりゃあいいですねぃ、それなら傀儡を広めがてらいい話を探して歩かねぇと」
ギアマンテもどこまでが本気だかは知れないが、ふっ、と笑って見せたのだった。



さあもっと混沌と


…――一方その頃

「――いーっ…きしゅっ!なんだァ、誰だ俺様の噂をしてる奴は」
「え、今のくしゃみだったの?」
「ああん?それ以外に何があんだこのガキ」





110920
110605の地下牢からサルベージ