アルネフィアル

一言で表すなら「ハルトが欲しい」で、終わる話←



「アザルトにラインハルトとかいう男がいるだろう?」
「ええ、いますね」
急に、何を言い出すのだろうと、アルケインは不思議に思いながら相槌を打つ。
「あれはなかなかいい雑用係になると思わんか」
「どう、ですかねえ…戦場でしか会ったことがないのでなんともいえませんねえ」
アルケインの答えにネフィリムは、ふむ、それもそうか。と頷きながらも、だがよいと思うのだ。と続ける。
「まあ、坊ちゃんのいい世話係にでもなるんじゃないか」
横で話を聞いていたフェルトはため息混じりにそう吐き出す。
それにむっと唇を尖らせるネフィリムに、まあまあムキにならないでくださいよとアルケインが宥めに入った。
「それで、なんで突然、彼をご所望で?」
ネフィリムの機嫌を直そうと、アルケインが話を元に戻すと、ああ、と、まだ不満げだが小さく頷いて話を続けた。
「いや、な。あれはなかなか気が利きそうだろ。さらってきたら……そりゃあ最初は楯突くだろうが」
「さらうんですか」
ネフィリムの言葉にすかさずアルケインが突っ込むと、アザルト攻略が思うように進まないのだから仕方なかろうと返ってきて、なるほど、それもそうかとアルケインは頷いて続きを促す。
じゃあ僕がちゃっちゃと陥落させてきますよ! くらいのことを言えばいいものをとフェルトは小さくため息をついた。
「まあ始めは楯突いたところで飼い慣らしてしまえば、そうだな…面倒見のいい兄、みたいな感じになると思わないか」
「兄、ですか……」
もう何年も前になるが、ネフィリムは父と兄を殺しているし、アルケインも、フェルトもそれに加担した。
アルケインは眉を寄せて――とはいえ、仮面でその表情の変化は外からはわからないのだが――、ちらりとフェルトを見やった。
フェルトは視線をそちらへ向けるこなく黙り込んでいて、仕方なくアルケインはネフィリムに向き直る。
その様子の理由を察したネフィリムが、低俗な兄なぞは要らんがあれはいいような気がするのだ、と、深く気にするなとでも言うようにネフィリムは軽く言ってのける。
本人がそう言うなら自分たちが深く気にしても仕方ないと、そう、ですね。と、けれど歯切れ悪く答えた。
「なんだ、よいと思わないか。アルケイン、お前だって奴に何かと任せて葡萄畑に集中できるのだぞ」
「そっ、それは…!」
ネフィリムが続けた言葉に、アルケインの仮面の奥の瞳が瞬時に輝く。
「実現したければさっさとさらって来い。成功すればこれで余にこきを使われることもなくなるのだ、よかったなアルケイン」
至極愉しげに言い放ったネフィリムに、フェルトは吹き出し、アルケインは固まった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! それって僕はもうお役御免てことですか!? お払い箱ですか! ひどいです陛下! 反対! ラインハルトさん拉致反対!」
途端に喚き始めるアルケインに、ネフィリムはくすくすと肩を揺らして笑い、冗談だと言って手招いた。
「なんですか」
冗談、との言葉にほっとしたらしいアルケインは、また心臓に悪い冗談を重ねられるのかと訝しみながらも近付き、言われるままにネフィリムの口元に耳を寄せた。
近付く二人の距離に、まったくこのバカップルは見てられないなとフェルトは肩を竦めて、静かに部屋を出た。
それに気付いてか、フェルトが居てもそうするつもりだったのか、ネフィリムは「お前は、俺が死ぬまで側を離れないんだろ?」と囁いて、アルケインの耳を軽く噛んだ。
アルケインはびくりと肩を跳ねさせて飛び退く。
「ももももちろん離れませんよっていうか陛下何するんですか突然!」
噛まれた耳に手を当てて狼狽するアルケインに、ネフィリムは声を上げて笑った。



100704
リメイク 101118
英雄!処女作
夏の時点での話。多分結構拮抗してた頃?