傀儡師

※2にて、初めての魔導砲



「だからね、なんなんでさ。アチキがちょぉっと何か行動を起こすたんびにそうやって」
さして広くもない獣道の途中、まるで行く手を阻むかのように佇む仮面の男に、傀儡師は不満げに声を漏らした。
更にはあからさまにやれやれと肩を竦めて溜め息まで。
しかしそれ以前に、気分を害していたのは仮面の男のほうだった。
「あの魔導砲ですがね」
「ああ、あれですかぃ。すごい威力でございやしょう?」
低く呟いた仮面の男の言葉に、傀儡師の声のトーンが上がった。
「すごすぎるんですよ」
溜め息混じりにそう言った仮面の男に、傀儡師はきょとんと首を傾げる。
「戦争に勝つためにはいいことじゃねぇですかぃ。それとも、三国全てに配って歩いたのが気に食わないので?」
「いえ、そういうことではなくてですねぇ」
ぺらぺらと流れるように話す傀儡師とは対照的に、仮面の男はのろのろと重たげに答えた。
「各所に造っていた僕の葡萄農園もいくつか焼き払われてるんですよ」
「ほう、被害に遭われている、と」
「まあそんなところです」
確かめるように問い返した傀儡師、仮面の男が頷く。
それを確認して、傀儡師はうーんと唸った。
「そんなこと言われやしてもねぇ。戦争に損失は付き物でございやしょう?」
まあ、改良点の候補には一応挙げときますが。
少し悩むように、しみじみと傀儡師の言った言葉は尤もで、仮面の男も、お願いしますよと呟いただけでそれ以上の言及はしなかった。
「でも、可愛いでしょう?アチキの傀儡は」
「昔、可愛らしい少女に畑を荒らされたことを思い出して、少々苛立ちを覚えますね」
また何やら売り込もうとしているのだろうか、傀儡師の言葉に仮面の男は皮肉を込めて返した。
しかし傀儡師のほうはそんな皮肉より、傀儡が可愛いと認められたことが嬉しいのか、にこにこと、それはそれは嬉しげに仮面の男を見やった。
「ふふっ、それはご愁傷様でさ。アルケイン様の言う昔のことなどアチキは知る由もありゃあしやせんし」
傀儡師はそう笑い飛ばして歩き出すと、仮面の男――アルケインの横をすり抜けてそのまま背を向けた。
いやあほんとに!傀儡って可愛いですよねぇ!と声高に言いながら。
余程ご機嫌らしい。
その様子に、呆れ混じりで傀儡師の背中を見送るアルケインを、傀儡師は首だけで振り返って見やった。
何故か、手にしていた傀儡の顔も一緒に向けられている。
「それでは、また何かのときにお会いしやしょう」
そう言って傀儡師は傀儡の手を掴むと、アルケインに向かって振って見せた。
「本当に、なんなのでしょうねぇ、あの人は」
再び進行方向に向き直った傀儡師は、溜め息をつくアルケインを振り返りはせず、軽い足取りで獣道の先、深い茂みへ姿を消した。



てきとうにかわして。


(ああ、めんどくさい)





110920
110602の地下牢からサルベージ