アルニル

レオニール争奪戦のあと



目が覚めると、隣には誰もいなかった。
ただ、そこにいたという形跡だけを残して、彼はいなくなっていた。
温もりすら残っていやしない。
何も言わないまま、もう随分前に彼がどこかへ行ってしまったことは明白だった。

昨夜、近辺をうろつく兵に見つからずにどうやってここまで来たのかは知れないが、彼は窓の外に現れた。
久々に見る顔に驚いて、慌てて開けてやれば、するりと部屋に入ってきて何を言うより先に俺の頬に口付けを落とした。
「ア、ル…」
久しぶりだな、とか、なんでこんなところまで来たんだ、とか、そもそもどうやって、とか。
言いたいことはたくさんあったけれど、たくさんありすぎて喉に詰まって、何も言えないまま彼を見つめて立ち尽くした。
「お久しぶりです、レオニール君」
何も言えない俺に代わるように彼がそう言うから、俺はただ、ああ、とだけ返す。
なにかちゃんと話さなきゃと思えば思うほど何を言って良いかわからなくなって、話したいのに話せないとやきもきする俺に気付いた彼は、落ち着いてくださいと柔らかく微笑んだ。
そうは言われても会えなくなった理由が理由だし、それも突然で、直前に何も交わせなかったしで、それきり顔を見ることも出来なかった愛しい人が目の前にいるのだ、落ち着けるはずがなかった。
「なんて、僕も、君に会いたい衝動だけでここまで来てしまいましたし。人のこと言えないんですけどね」
くすりと笑みをこぼしながら告げられる言葉が穏やかで、愛しくて。
とりあえず言葉の代わりにぎゅっと抱きしめて、少し高い位置にある顔を見上げて、俺も会いたかったと微笑んだ。

それから、いくつか話をして、それでも想いが先走って度々言葉に詰まる俺を、不意に彼は抱き上げるとそっとベッドに下ろして唇を重ねた。
そこからはもう、溢れ出す思いのままに同じような言葉を繰り返し吐きながら身体を重ね、正直、交わした言葉など半分以上は覚えていないくらいで。
ただ覚えているのは、また暫く、それどころかもしかしたらもう二度と会えないかも知れないと、言葉にはしなかったが互いが覚悟を決めたことくらいで。
離したくないのだといふうに彼が俺を掻き抱くから、俺も強く抱きしめ返して。
果てたあとはどちらもさして言葉を発さず、ただ指先と唇で戯れて、月も沈んだ深い宵闇で、ゆるりと眠りに落ちた。

だから、彼が朝が来る前に帰るということも聞いていないし、それならそうと、行く前に起こしてくれたらいいものをと、切なくなりながらシーツをなぞる。
「アル…」
会いたいよ。
小さくもらした声は、開けられたままの窓から吹き込んできた風に流され、消えた。



君の抜け殻も風に


110915
110115の地下牢からサルベージ