アルレオ

※2初期



「おはよう、…早いな、アルケイン」
「君も充分、早いと思いますよ。レオくん」

寒い、寒いと数度口にしながらロビーへ顔を出したレオに、アルケインが微笑む。

「何か、飲みますか?」
「ああ、頼むよ」
「コーヒーでいいですよね」

ここは戦地だから大したものはない。
ましてやワイン以外にはさしたる興味のないアルケインが煎れるのだから、当然大して旨くもないインスタントだろうと寝起きの頭で考えながら椅子を引く。
なんであれ、とりあえず暖かければなんでもいいやと半ば投げやりに腰を下ろしたその木製の椅子はひどく冷たくて、思わず下ろしたばかりの腰を浮かせた。

「ブラックでいいですよね……、なに、してるんです?」
「えっ、あっ、いやっ、ちょっとな!」

ああもうこれでばっちり目が覚めちゃったなとレオは理由を語ることなく中腰で苦笑して見せる。
それに対し、アルケインは特に返事をするでもなく、はい、とコーヒーの入ったカップを差し出す。

「ああ、ありが、と…?」
受け取ろうと伸ばした手を、カップにかわされる。
どういうことかと一瞬戸惑いで動きの止まったレオのその伸ばされた手を、アルケインがカップを持っていなかったほうの手で捕まえる。
「う、わっ!?」
そのまま引っ張れば、レオは簡単にバランスを崩して、アルケインの腕の中に収まった。

「なっ、なに!?」
「椅子、冷たかったんでしょう?」
「あ、あー…」

どうやら、わかっていたらしい。
アルケインはレオを抱き抱えたまま、レオが来るまで彼が座っていた椅子へと腰を下ろした。
レオはそのアルケインの膝の上に座るかたちとなる。
その位置が落ち着かず、レオはそわそわと何か言葉を探した。

「あっ、え、えとっ…、あっ、アルケインは、冷たく、ないのか?」
「僕はずっとここに座ってましたからねぇ、自分の体温でそれなりに椅子も温まってますよ」

まあ僕自身体温が低いのであまり気にならないとも言えなくもないですが。
くすくすと笑うアルケインに、レオはうーと唸る。
慣れない接触に、赤面しながら。

「お、重いだろう」
「いえ、全然。むしろ心配なくらい軽いです。はい、コーヒー」
「え、あ、う、…あり、がとう」

俯きがちに、だんだんと小さくなる声で、離してもらうための精一杯の抗議をするも、レオのそれはあっさりとかわされ、そのうえ言われ慣れない台詞を吐かれ、困惑。
むず痒い気持ちで、どうしようかと悩む間もなく、迷いのない所作でアルケインにカップを渡され、レオもつられるように素直に受け取った。

「あ、いや、そうじゃなくって」
「まだしばらく、ここへは誰も来ませんよ」
「そういう問題でもなくって!」

真っ赤になって、どうにか抜け出そうとするレオに、アルケインはくすくすと愉快げに笑う。
「ほら、コーヒー冷めちゃいますよ」
そのままそう言われれば、導かれるようにカップに口づけて結局離してはもらえず終い。

それでもまあ、もう少し温まるまでなら、いいかなと、レオは自分で自分を納得させ、アルケインの腕の中で、大人しくコーヒーを飲み始めた。



コーヒーと椅子ときみ


110908
101231の地下牢からサルベージ