未知を泳ぐ好奇心




はーあ。
この数時間で何度目とも知れない深い溜め息。
痣になったかもしれないなとぼうっと空を見上げながら首に触れる。
聞こえていなかったとはいえ、オレはフィッシュの言うことを聞くと応えてしまったわけで、逃げようなんて思ったって、どうせこれよりひどい目にあうのは明白で。
「うーん、逆らえない…か」
ナイツオブラウンド。
裏世界の人間を抑えつける、チラつかされていた圧倒的な力の差。
スラッシュとレンのさっきの様子を見た限り、確かに個人個人の能力も高いが、どうやら、その脅威の大半を握っているのはフィッシュ、らしい。
「あれ?でもリーダーはスパロウなんじゃあ…」
それとも、リーダーは高みの見物だろうか。
"ゲーム"といい、コードネームといい。
「……趣味悪ぅ」
「なんのこと?」
突如、降ってきた声に伏せ掛けていた目を上げて、声のしたほうを見上げる。
そこには、茶髪に涼しげな一重の瞳、ぱっと見、この暗い世界と埃っぽい廃ビルには似つかわしくない好青年――ナイツオブラウンドのリーダー、スパロウが立っていた。
その後ろには黒髪で、中性的な顔立ちの美人さん、なのに残念なほどに盲目的にスパロウラブのナイツオブラウンド参謀、フライが控えている。
「何の用」
「それはこっちのセリフ」
「ハァ?」
睨むように見上げたまま問いかけると、くすりという笑みとともに、よくわからない回答。
「君に呼ばれた気がしてね」
「アホか」
呼んでねーし。
心底呆れた顔で溜め息を吐いて見せると、フライに睨まれる。
ああはいはい信者さんは教祖様の悪口がお嫌いなんですねわかりました、わかりますけど自重はしません。
だってホント、アホなんだもん、スパロウ。
「つれないなあ」
「うっせ、黙れどっか行け」
ていうかオレなんぞ釣ってどうするよこのアホリーダーめ。
なるほどわかったぞリーダーのスパロウがこんなアホの子だからフィッシュが仕切ってるんだな、ようし理解理解。
それはそうとてフライが黙ったままあの綺麗な顔でじっと睨みつけてくるのが地味に怖いんですよね、ほんと早くどっか行ってくれないかな。
見つめられてんなら話は別だけど。
睨まれてる、すっごい、睨まれてる。
「ねえ、フライ。なんでフィッシュの連れてくる子は俺に懐いてくれないんだろう」
「貴方には俺がいるじゃないですか。それじゃあ、不満ですか」
「不満なんてないよ、愛してる」
「……ありがとう、ございます」
スパロウの問いもわけわかんないけど、フライの答えはもっとわかんない。
ていうかなんなのイチャイチャしにきたの?
あと自分の言い出したことに照れるなフライ、なんだその恥じらう顔、可愛いじゃん、ちょっとイイなとか思っちゃうじゃん!
「つうかお前らオレに用ないならどっか行けっての!」
「チッ」
「もう、空気読めないね、君は」
「うっせえ!」

――――……はーあ。
この数時間で何度目とも知れない深い溜め息。
オレ、今夜だけで何回溜め息吐けばいい?
仕方なく起き上がってどうにかあのアホップルを追いやって、再び床に座り込む。
なんか、あいつらのお陰で無駄に疲れた……。
さて、と。
オレはこれからどうすっかなあ。

→此処で寝る
→帰る
→ぶらつく