出会いは弱肉強食-2 きょろ、と辺りに視線を巡らすと、武装した連中がぞろぞろ集まってくるのが見えた、アイツ等の仲間だろうか。 「ほんじゃま、オレもトンズラこきますかね、っと」 よっこらせ、と立ち上がって、オヤジくせーなーなんて苦笑しつつ服に付いた埃を払って、夜空を見上げる。 星が見えないのはいつも通り、月だっていつもは見えないくすぶった空なのに、今日は何故かやたら輝いて見えた、赤い月。 「気味悪いなあ」 はあ、と溜め息。 コキコキと軽く首を鳴らしてから、来たときのようにビルとビルを跳び渡って、ナイツオブラウンドのアジトへ向かう。 結局帰っちゃうんだよなあと呆れる自分がいる反面、早く帰って、ラークにあの笑顔で"お帰り"って言ってもらうのを楽しみにしている自分がいる。 なんか若干、頬が緩んでる気もするし。 「気持ち悪いなあ、オレ」 ぼやいて、苦笑、そんなのもなんとなく、楽しかったりして。 なんて考えながら、ふと顔を上げると、数棟先の屋上に、人影。 誰だろうか、避けて通ろうかとも思ったが、呼ばれている気がして、無視してはいけない気がして、引き寄せられるようにそのビルを目指す。トンッ。 自分で言うのもなんだが、軽やかに着地して、顔を上げる。 そこにいたのは、黒い髪に緋色の瞳の、背の高い男だった。 「なんだ、フィッシュか…」 知らない人間かもしれない、と身構えていた肩の力が抜けた――瞬間。 「ぐ――ゥッ!?」 足が浮いた、視界が勝手に流れる、背中に衝撃。 ぐらつく視界で、どうにかフィッシュを捕らえると、彼は無感動にオレを見下ろしていた。 近くにあった壁に押しつけられている、首を絞められている、片手で、足は、浮いている。 状況を頭に叩き込む、どうなってる、どうしたらいい? ……くる、しい…。 意識した途端、頭が真っ白になる。 耳鳴りがひどい。 霞んだ視界で、フィッシュが何かを言っているのが見えたが、聞こえない。 わからない、どうしたらいい? 陸に上げられた魚のように、それでもどうにかと、必死に、呼吸をしようと足掻く。 足が着かない、怖い、頭が、ぐらぐらする。 ――どすん。 「っ!?げほっ、けほっ、ぁっ、はぁっ、ぁ、ぅえ」 急に、離されて。 重力に従って、コンクリートの剥がれかけた床に落ちる。 一気に肺に流れ込んでくる空気に耐えきれず、咽せる、吐き気すら覚えて、ただ苦しさに、喘ぐ。 わけがわからなかった。 ただ、うずくまって、全身を使って呼吸をする。 「わかったか」 わからないよ。 降ってきた声に、頭の中ではそう答えたが、口は未だ言葉を発することが出来なくて、どうにか顔を上げてフィッシュを見上げる。 その感情を写さない冷たい瞳は、否定の言葉を許さない圧力を持っていて、上げた顔を下ろす(不格好だが、頷いた、つもりだ)ことで、彼の言葉に肯定の意を示す。 すると、彼はそれきり何も言わないまま、オレに背を向けて姿を消してしまった。 「だから言っただろ」 その声にもう一度顔を上げると、それまで気付かなかったが、フィッシュと一緒にいたらしいダヴが目の前に立っていた。 「なに、が」 ようやく落ち着いてきたオレは、体を起こしながら問いかける。 「勝手なことするとアマネに怒られるぞ、ってさ」 「アマネ?」 ダヴの言葉に首を傾げると、彼は慌てたように両手と首を振る。 アマネ。 それがフィッシュの本名なのだろう。 別に、それを知ったところでなにをするというわけでもないが。 普段はツンケンしているように見えるダヴだが、案外子どもっぽくて、隠し事や、嘘を吐くことが苦手で、思ったことをすぐに口に出してしまう性格なのかもしれない。 ついでだから、答えてくれるかもしれないと、問いかける。 「さっき、フィッシュは、オレになんて言ってた?」 「なんだよ、聞いてなかったのか。アマネにバレたらまた怒られるぞ」 怒られるってレベルじゃないけどね、死ぬかと思ったからね。 なんてことは言わず、ただ黙って頷く。 「"何をしていた、勝手は許さない、俺の言うとおりにしろ。いいな? ……わかったか"」 しょうがないなあと、ダヴはわざとらしく肩を竦めて溜め息を吐いたあと、そう言った。 どうやらそれが、フィッシュがオレに言った内容らしかった。 わかったか、っていうのは、多分、オレがわからないながらもとりあえず頷いたアレだろう。 てことはなんだ、オレはフィッシュの指揮下に入ることを了承してしまったということか。 「裏切ろうとか、考えない方がいいよ」 逃げきれるわけがないんだから。 そう言い残して、ダヴは、フィッシュの消えていったほうへと駆けだしていった。 もしかして…いや、もしかしなくても。 オレは、相当厄介な輩に捕まってしまったようだ。 「いやあ〜、マジないっしょぉ…」溜め息混じりにぼやいて、埃っぽい床に寝転がった。 赤い月は、もう沈もうとしていた。 To be continued 100922 カズミはアマネさんのお気に入り。 首絞めるのはアマネさんの趣味っていうより書き手の趣味ですサーセン。だって好きなんだもn(ry ← |