一度会ったご縁です-2 「っと、レン、そろそろ時間だ。行こうぜ」 「ん、おう。おいオウル、洗濯物綺麗にしとけよ!」 「ひぃっ、バレてる!」 「さっきの様子見てたらバレバレだろうよ」 時折悲鳴を上げる古びた木製の椅子から立ち上がったスラッシュがレンに呼びかけるとレンは頷いて、怒鳴りながら洗濯物をオウルに投げつけた。 椅子とは違うたぐいの悲鳴を上げたオウルに、肩を竦めて笑って見せたスラッシュは、レンが隣についたのを確認して、オレたちに背を向けるとひらりと手を振って、レンと言葉を交わしながら出て行った。 「ほらあ、あんまし怒ってるとかわいー顔が台無しだぜ?」 「うっせーよ、キメェよ」 「んまあ、ヒドいわあこの子」 「気持ち悪い声出すな!」 云々。 どつきあいながら出て行く二人の背を見送って、銃の手入れをしていたカイトの肩を叩く。 「なあ」 「ん、どうした」 「あいつら、何しに行ったんだ?」 「ゲームの幕を開けに」 「ゲーム?」 カイトの答えに首を傾げると、少し背を丸めていたオレの背中に、のし、とブルが両腕をついてもたれ掛かって言う。 「そ、ゲーム。スパロウが言い出したんだけどさ。今回は警察の特殊部隊を潰すんだとよ」 「それが、ゲーム?」 「ゲーム扱いはスパロウの趣味だよ」 のしかかるブルを、邪魔だと除けながら問うと、今度は洗濯物に張り付いた紙屑と格闘中のオウルから返事が返ってくる。 視線は洗濯物を睨んだままだ。 「いつもそうさ、作戦に必要な人員集めるところから何から何まで奴にとってはゲームだよ」 「ゲームは構わねえけど、俺らがPC(プレイヤーキャラクター)扱いされてんのがちょっとムカつくかな」 「あはは、なに言ってんの、俺とビートルはNPC(ノンプレイヤーキャラクター)だろ」 「それはそれでフクザツ」 オウルに続いて割り込んできたのは、さっきまでハンバーグだの唐揚げだので喧嘩していたハッカー二人だ。 パソコンで何やらゲームをしながらケタケタ笑うラークに、ビートルはゴミを片付けながら眉を顰めて、肩を落としてはあ、と溜め息。 ともあれ、さっき出て行った彼らはテロリストっぽいことをしに行ったようだった。 「…じゃあ、ちょっと見てこよっか、なっ」 オレはそう呟いて、テーブルの足元に放り投げてあったヒップバッグを拾い上げる。 中身はサバイバルナイフやら投擲用の使い捨てナイフやら、あとは、この間拾った小型拳銃(当てられる気はしないが無いよりマシかと思って)とかか。 それなりの重さのあるそれを腰元で留めながら、申し訳程度に掛かってるカーテンを捲ってガラスの無い窓の外を見る。 まるで、そこらのコンビニにでも行くような足取りのベリーショートの赤髪とセミロングの金髪が見えた。 それを追うように(無論、彼らに見つからないように)、隣のビルに飛び移ろうとしたところで、ちょっと待ったと後ろから声がかかった。 「なに」 窓枠に足を掛けたまま振り返る。 ダヴが、眉を顰めて仁王立ちでオレを睨むように見つめていた。 「勝手なことしたら、アマ…じゃない、フィッシュに怒られるぞ」 「まあ、キミたちナイツオブラウンドはそうかもしんないけど、オレ、言わばただの顔見知りだからさあ」 キミたちのルールには従うつもりはないよ。 にこりと皮肉っぽく笑って見せるとダヴは黙り込んだから、今度こそ外へ出ようと背を向ける、――と。 「ちょい待ち」 再び、今度はラークに呼びかけられて、オレは律儀に振り返った。 何か小さなモノを投げられて、反射的にキャッチする。 見てみると、盗聴器とかそのたぐいのものだった。 「それ、どっかテキトーに仕掛けといて。アイツらの声が聞こえるように。回収はしなくていいからサ」 ヨロシク。と笑いかけてくるラークに、返事をせずに背を向ける。 「いってらっしゃい」 「素直に此処に戻ってくるとでも?」 無邪気な、歳に見合わない笑顔を浮かべているのであろうラークに、振り返らないまま問う。 そうだ、オレは、数日前たまたま此処へ連れてこられて、別段行く宛てもない(それまで居座っていたグループはオレが壊滅させてしまった)からとりあえず居座ってみただけで。 何処か他に利用出来そうな奴らがいればオレはそっちへ行くだろう。 此処へ帰ってくるとは限らないのだ。 それなのに。 「もちろん、思ってるよ。だから気をつけてね、カズミ」 彼は、そう言って、笑う。 オレは小さく溜め息を吐いて、何も答えないまま、乗り上げた窓枠を蹴って外へ飛び出した。 ナイツオブラウンド。 この帝都で、知らない奴なんて居ないんじゃないかと思われる、最強にして最凶のテロ集団。 特に、裏社会に生きる人間で、逆らう奴なんていないと断言できる。 それが、ナイツオブラウンドに関して、オレが聞いていた噂だった。 実際のところ、そんなふうには見えない気ままな連中で、テンポを狂わされるけど、なんだか居心地がいいかも、なんて、思っちゃったりして。 オレはきっと、あんなことを言った割には結局あそこへ帰るんだろうなと思いながら、ビルを飛び移った。 To be continued 100916 補足 諜報、だなんて組織内ポジションは知ったこっちゃない主義の主人公認識ではラーク、ビートルはハッカー、ということに。 ビートルとラークが出しゃばってるのは完全に贔屓です、サーセン。だって好きなんだもん。 ← |