一度会ったご縁です-1




ナイツオブラウンド。
この帝都で、知らない奴なんて居ないんじゃないかと思われる、テロ集団。
特に、裏社会に生きる人間に限定したら、知らない奴なんていないと断言できる。
それが、ナイツオブラウンド。
スラム街全域をアジトとする奴らだ。
13人の幹部以外は人数なんて把握できない。
常々、必要な人員をこの街で揃えて、幹部の指示の元使われる、言わば使い捨ての駒のような者が数多に居るからだ。
その殆どがそれぞれ活動している小規模なテロ集団で、オレも、その1人。
そんな使い方をされてもオレたちが従ってしまうのは、暗に示される力の差もあるが、成功時には多額の報酬が出るから。
後者の方が大きな理由。
この世界、金が全てだ。
感情なんて、政府や華族社会などへの憎しみ、恨み辛み以外のものは存在しなくて、ただ、金と復讐のために続く日常、回る世界。
そして、それをこの帝都で牛耳る、最強にして最凶の現代の円卓の騎士。

――だと、思っていたのだが。
なんなのだろう、このテンションの高い集団は。
「あーっ!ビートルおまっ、オレのハンバーグ!」
「うっせ、こないだ唐揚げ一人で勝手に食っちまったくせに!」
「おいコラ!誰だよポケットに紙入れたまま洗濯出したの!てかコレティッシュじゃね?冗談じゃねえぞ!」
「ねえ俺のYシャツ知らない?」
「は?Yシャツなんてなんに使うの」
「ナントカっつー侯爵のオッサンとこ行くんだってさ」
「オマエいっつもコマドリの名前覚えねーよな」
「ま、覚える必要も無いっちゃ無いから覚えないってのもアリといえばアリだしなあ」
「ねえ、さっきレンがキレてた洗濯物ってのがオウルのYシャツなんじゃないの」
なんなのだろう、この妙に家庭的でテロとは無縁そうな集団は。
「あっ、カズミいいところに!聞いてよビートルがね」
「おま、ズルだろそれ!」
「ていうかいい大人が食べ物如きで何やってんの」
「いやあ、食いもんは重要だぞ、ダヴ。だよなあ、カズミ?」
「あわわわわどうしようカズミ!俺レン怒らせちゃったかも!」
「カズミに泣きついたってどうにもなんねえだろ、素直に謝ってこいよ」
「っぷ、ある意味死刑宣告」
「そういうこと言わないの。まったく……カズミもなんか言ってやってよ」
「おい!そこでなあにこそこそしてんだ、カズミまで一緒になって!」
そして、なんでオレはこんな奴らに好かれて(?)いるんだろう。
いつの間にやらオレを取り囲んでわあわあ言ってるこいつらが、ナイツオブラウンドの幹部の内の九人だ。
ラーク、ビートル、スラッシュ、レン、カイト、ブル、オウル、ロック、ダヴ。
数日前の作戦に、オレのいたグループが参加して、そのときうっかりターゲットに止まらず仲間(なんて、上っ面だけだけど)まで殺して血の海に一人佇んでいたオレを、フィッシュとかいう男が気に入ったとか言って奴らの本部(?)に連れてこられてから、こんな感じだ。
フィッシュだけじゃなく、どうやら幹部たちのオキニイリ、らしい(ラーク曰く)。
オレを此処へ連れてきた当のフィッシュ本人は、リーダー・スパロウ、参謀・フライと共に何処かへ行ってしまっていて今は此処にはいない。
あと一人、リニット、という男がいるらしいが、彼はスパイ活動中らしく、オレは会ったことはなかった。

ちなみに奴らの名前、本名ではなくコードネームらしいのだが、なんでそれがクックロビン(コマドリはターゲット、らしい)なのかはスパロウとフライ、それと、ラークしか知らないのだという。
ならばと先日、スパロウに理由を聞いてみたのだが曖昧な笑みとともに濁されてしまったので聞けていない。
フライは、スパロウが言わないのなら言えない、と。
ラークも彼に同じだった。
以来、言及はしていない。
お喋りで口の軽いラークが言わないということはよっぽど公言しづらいことなのだろうし。
オレは、誰と誰がどういう関係なのかとか、過去に何があったのかなんてのは知らない。
知る必要も、ない。
面倒になったら殺してしまえばいい、みんな。
今までだってそうやって生きてきた。
ただ、オレがこの組織について知っていることと言えば、スラッシュ、レン、カイト、ブルはリーダーであるはずのスパロウをあまりよく思っていないということと、オレはどうやらダヴには歓迎されていないこと、あとはビートルとラークがスーパーハッカーであることくらいだ。
今のところ、オレはこの集団が本気になったところを見たことはなくて、本当にナイツオブラウンドというこのテロリストたちが噂ほど厄介な人物なのかすら、知らない。
まあ、テンションがちぐはぐ過ぎて絡みにくいという面では厄介な奴らだと、連れてこられてこの数日で嫌と言うほど思い知ったが。



Next