2011しがつばか

「あ、おはようカズミ。起きてきて早々なんだけど、大事な話があるんだ、聞いてくれるかな」
そろそろ昼になろうかという頃、あくびを隠しもせずロビーへ出ると、1人掛けソファでコーヒーを啜っていたオウルが、オレに気付くなりそう言った。
その向かいの4人掛けソファでは、ビートルがパソコンをいじっていて、その膝でラークは眠っているようだった。
口元が緩んでいてその寝顔はぶっちゃけ気色悪い。
ラークを見やって眉を顰めていることに、オウルは困ったように笑いながらオレを手招いた。
大事な話だなんて言われてしまったし、仕方なしに近付くと、テーブルにコーヒーカップを置いてフリーになったその両手に、急に抱き寄せられてしまう。
「なっ、何す…!」
予想外に強い力で抱きしめられて、ちょっと抵抗したくらいじゃ逃げ出せず。
体を反転したところで腰に回っていた手にそのまま引っ張られ、膝の上に座らされて抱きすくめられてしまった。
「しーっ」
文句を言おうとしたところで、耳元に唇を寄せてそう囁かれてしまって、思わず大人しく黙り込む。
オウルの髪が首筋に当たるのが擽ったくて身を捩ると、更に強く抱きしめられた。
「で、なんだよ」
こうなればもう早く離して欲しくてさっさと用件を言えと促す。
「うん、実はね…」
オウルはそこで、深刻そうに声のトーンを落とした。
それがどこか居心地が悪くて、落ち着き無く視線をさまよわせる。
ふと、視界に入ったカレンダーが目に留まった。
(あ、今日……)
「俺…」
気付いてしまったオレに気付かず、オウルは至って深刻そうに続ける。
――ピピッ!
そこで、タイミングよくビートルの電波時計が、正午を告げる電子音を静かなロビーに響かせた。
「ダウト」
「えっ?」
「えぇっ!?」
「うわっ、急に起きあがんな馬鹿!」
電子音に続いてオレが告げると、オウルはきょとんとした間抜けな声を出した。
それとほぼ同時にラークが大声上げて飛び起きて、ビートルに頭をはたかれる。
ていうかニヤニヤして気持ち悪いと思ってたら寝たふりしてやがったのか、あの馬鹿。
「ちょ、ちょっと待ってよ、俺まだ最後まで言ってない」
「エイプリルフールの嘘は午前だけで午後はネタばらしデース」
「う」
焦って戸惑うオウルの腕から抜け出し、カレンダーを示して鼻で笑ってやれば、オウルは悔しそうに言葉を詰まらせた。
ラークはバレてたのかつまんねーのと唇を尖らせてテーブルに突っ伏している。
オレは、まあ気付いたのはほんの今さっきだけど、とは言ってやらず、当たり前だろと笑い飛ばす。
そもそもそんな大事な話ならこんなとこでしねぇだろ、ともまさに今気付いたし。
「で、なんなの、グルなのお前ら」
「そりゃあね、カズミの驚く顔が見てみたいな、って。ね?」
「うん」
「俺は巻き添えな」
ふてくされたままオレの問いに答えるラークが更に他2人へ問いを投げると、オウルは頷いてビートルは肩を竦めた。
「で、ちなみにどんな嘘つくつもりだったんだよ」
一応聞いといてやるよ、と自分でも悪役面と思うような感じに口元を歪めて問うと、オウルは困ったような、ほっとしたような、なんとも言えない表情でちいさく微笑んだ。
その様子を不思議そうに見ていたラークが言おうとするのを、ビートルが止める。
そしてオウルは、一言だけ、オレに答えた。
「内緒」



言えない。だってほんとは嘘じゃないんだ。


「で、結局隠し撮りしてたのはカズミがオウルといちゃついてるだけの映像になったわけだが」
「うわ、要らな」
「え、俺は欲しいな」
「ちょっと待て、隠し撮りってどういうことだ?あ?」
「え、えと、あ、そう!嘘だよ!ウソウソ!」
「ホントに嘘ならちゃんとオレの目見て言って見ろこンのボケヒバリ…!」
「痛い痛い!あーん、ビートルが変なタイミングで言うからあ!」
「しーらね」