2010ハロウィン-2

 


「とりっくおあとりーと!」
本部ロビーのソファーで雑誌を読んでいたオレに降りかかった無邪気な声に、仕方なしに顔を上げた。
そこでは声同様無邪気な笑みを浮かべたラークが手のひらを上に向けて、こちらに差し出していた。
「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ☆」
「うぜ」
「あん、ひどい」
つれないなあなんて唇を尖らせながら、オレの右隣に座って腕を絡めてくる。
「おいなにする」
「お菓子とカズミ、どっちをくれるの?」
にこり、無邪気な笑みのまま問われる言葉に逃げ出したくなる。
残念ながらポケットに入っていた飴はさっきストックが切れたとぼやいていたビートルにあげてしまったし。
普段菓子類なんて持ち歩かないオレは、実力行使以外でこの大きな子どもを引き剥がす術を知らない。
右腕に絡みつくラークを引き剥がそうと左腕を上げたところで、そっちにも他の何かが絡みつく。
「!?」
びっくりして振り返ると、いつの間にやらオレの左隣でソファーに収まっていたダヴがじいっとオレを見つめているのと目が合った。
「そんな奴じゃなくて、俺とイイコトしようぜ」
にいっとダヴの口角が上がる。「うえっえ、え、え?ハロウィンってそういう主旨のもんだっけ?ちげくね?」
両サイドから詰め寄られてテンパったせいか変な声をあげながら反論するオレに、また別に声がかかる。
「お菓子がなければ、そうなるんじゃないかな」
にこり。
ロビーの薄暗い蛍光灯の光の届かない廊下から姿を表し、正面から近付いてくる長身で、金髪碧眼の麗人。
オレの正面、足元に片膝でしゃがみこんでかしずく姿は様になっている。
って、何見とれてんだオレ!
そうじゃないだろ!
「オウルまで何わけわかんないこと言ってんだよ!」
「わかんなくないだろー。お菓子がなければカズミを食べればいいじゃない。ってはなしなんだから」
「それ言うならパンがなければお菓子を、だろ!うまいこと言ったぜみたいな顔すんなラーク!」
右隣から挟み込まれた言葉に、反論、というか寧ろツッコミ、を入れる。
「じゃあ、お菓子はいいからイタズラさせろ」
今度は左隣。
「つかそれじゃあハロウィンの主旨に沿ってないから!」
「なら、菓子もカズミも欲しい。これならどうだ?」
突然、背後…っていうかいつの間にいたのか頭上からまた違う声が聞こえて、そのまま顎をすくい上げられて上を向かされた。
眼鏡越しの赤い瞳と目が合う。
「フィッシュまで……ついに頭沸いたか」
ぼそり、呟くと赤い瞳がすっと細められる。
かと思えば、ぱんっ、と軽快な音がして、オレの顎からフィッシュの長い指が外れた。
なんだろうかと思ったら、オウルがはたいたらしかった。
「ほう…」
フィッシュの機嫌の悪そうな低い声が響く。
けれど、これはちょっとばかしマズいんじゃなかろうかというオレの心配はお構いなしに、オウルはオレに微笑みかけてくる。
「じゃあ俺は、クッキーやキャンディじゃなくて、カズミっていうお菓子が欲しいな」
「それもなんか違う!」
ちくしょう、結局ばかばっかか!



Happy Halloween!