ドライ

 


さあ今日から劇の練習を始めるぞ。
衣装班もできたら今日から準備を初めて欲しい。
大道具班もある程度何が必要かくらいは割り出して欲しいな。
「ゴメン俺バイト」
「嘘こけ、カゲミツお前バイトなんてしてないだろ」
うまいこと言い訳して逃げようと思ったら、ヒカルに腕を掴まれて逃げることは叶わなかった。
なんだか、振り返った先に見えたタマキとオミの笑顔が怖い気がしたのは、あくまで気のせいだと思いたい。
特にタマキ。


白雪姫in文化祭V


「て、いうか、もうシナリオは書けたのか」
スゴいなあ、と、トキオが感心したように言う。
たしかに、昨日の今日だ、タマキの意外な才能を垣間見た気がした。
「まあな、基本的には元のまんまだし、ところどころ端折ったし」
「端折ったん」
「うん」
衣装係のメッシュ男が突っ込むと、あっさり返事をしたタマキは紙束をそいつに突き出す。
「それ、衣装係で回して確認して。大道具も、はい」
ぽん、と渡された紙束に、ヒカルもおう、と応じてぱらぱらとめくって内容を確認していく。
横からそれを覗いていると、俺用にとタマキに一冊渡された。
「あれ? ラストは?」
先に読み始めていたメッシュがタマキに問う。
「あ、こっちもない」
「俺も」
あと1ページくらいだろうか、シナリオが欠けている。
どういうことかとタマキを見やると、待ってましたとばかりにタマキは唇を三日月に歪めた。
「俺しか知らないサプライズストーリーだ」
ま、大道具には後でタイミング見て教えるけど。
そう言って、タマキは意味深に笑った。
俺は、嫌な予感しかしなかった。
「じゃあ、楽しみにしとく」
面白いことになりそうだと受け取ったらしいヒカルは、にやにやしながら、タマキの言葉に頷いた。
いつの間にか教室の端の机を陣取っていたメッシュは、衣装班の他の奴らと一緒にデザインや必要なものを書き出していて、ちらりと覗き込んだ俺が、その衣装案に見なきゃ良かったと本気で後悔したのはまた別のはなし。
――それから、役のある奴には一冊ずつ台本を渡して、とりあえず読み合わせを始めようかといったところで、トキオが、あれ? と首を傾げた。
「そういや、オミのヤツ、何処に行ったんだ?」
そういえば、と教室内を見回す。
けれどさっき(帰りのショートの後逃げだそうとした俺を引き止めたとき)まで居たはずのオミは、教室内には居なかった。
放課後、練習をするから、と言っていたのだから、帰ったとは考えにくい(ヒサヤは居るし)。
「え、ああ、オミなら…」
タマキは、けろりとして言ってのけた。
「隔離中」
場の空気が、固まった。



メッシュ=ラーク

To be continued
100715
加筆修正 100914