アイン

 


さて文化祭でうちのクラスは何をやろうか。
クラス委員のタマキが教壇に立って言う。
その隣でパイプ椅子を出して偉そうに座っている担任のキヨタカがクラスをぐるうりと見回した。
勢いよくオミの手が挙がる。
「じゃあオミ」
タマキが呼ぶと、オミはにこりといい笑顔を浮かべて言い放った。

「演劇、やろう」



白雪姫in文化祭T



白雪姫、隣国の王子、継母、小人A、B、C……タマキの字で黒板に役名が連ねられていく。
オミの言った案に大した反対意見も出なかったために、それが決定案となり、それにトキオが折角文化祭なんだから喫茶店とかやろうぜ、なんて言ったものだから、それが合体したものがうちのクラスの出し物になるらしかった。
要は、時間を決めて体育館を借りて演劇をし、それ以外はその衣装で喫茶店をやる、というわけだ。
男子校で白雪姫なんてサムいだろと思ったが、どうせ俺は裏方だろうしまあいっかとぼうっとその成り行きを教室の窓際の席でぼうっと眺めていた。
「じゃあまずは主役の白雪姫から、かな。誰がいい?」
ある程度を書き終わったタマキが振り返ってクラスに尋ねる。
「カゲミツがいいな」
さらりと言ってのけたのはオミだ。
聞き流していた俺は、一瞬その言葉も聞き逃しかけたが、ん? と思って後ろに座るオミを勢いよく振り返る。
にこにこと笑みを浮かべて彼は俺を見ていた。
「ちょ、なに言って」
「もちろん王子様は俺ね」
ぷっ、と俺の隣の隣に座っているヒカルが思い切り吹き出す。
「キスはガチ?」
「当たり前だろ」
冷やかすように言うヒカルに対し、オミは何を聞くんだとでもいうふうにけろりと答えた。
オミがあまりに当たり前のように宣うだから、冷やかすヒカルの顔が苦笑に変わり、俺は溜め息と共に頭を抱える。
俺が言ったってオミが聞く耳を持たないのはわかりきっている俺は、誰かこいつを止めてくれないかと助けを求めるように周りを見やった。
トキオとキヨタカはにやにやしているだけで、ヒカルとヒサヤは呆れきった顔をしている。
タマキは何かを考えている風で、口を開く様子はない。
小首を傾げたアラタが、無邪気な笑顔で口を開く。
「オミくんは真実の鏡くらいでいいと思うけど」
「言ってくれるね」
アラタの言葉に、最近、フジナミオミという男がただの変態だと漸く理解し始めたクラスメイト立場は、少しばかりそれでもいいよね、という空気を醸し出す。
けれど、それはダメだろう、とヒサヤが口を開いた。
「なんで?」
不満そうにアラタが問う。
「サヤだけだよ、俺の味方をしてくれるのは」
「いや、そういうわけじゃないですけど」
大袈裟に言うオミに対し、ヒサヤはさらりと否定すると、だってそうでしょ、と続ける。
「あの人が鏡なんてやって御覧、誰が一番美しいと問われたら間違いなく自分と答えるだろ」
「あー、たしかに」
「そんな鏡は嫌だね」
ヒサヤの言葉に、カナエが思わず、と言ったふうに苦笑をもらす、アラタはそれはなしだねと眉を顰めた。
「ねえアマネ、なんかこれひどくない?」
教室の後ろで腕を組んでロッカーに寄りかかっていた副担任を振り返ってオミが言う。
だが、対するアマネはふんと鼻で笑って、当然の結果だろと冷たく答えただけだった。
むうっとむくれたオミはじゃあなんならいいのさ、と、どすっと不機嫌げに腰を降ろす。
「王子様でいいんじゃない?」
不意に、タマキが言う。
「え?」
俺は思わずぽかんと聞き返してしまう。
「俺、小人やりたいな」
「や、ちょっと待てよ」
そもそも俺が白雪姫っていうのが解決されてないまま話が纏まろうとしていることに気が付いて慌てて口を挟む。
つかタマキが何を考えてそんなことを言っているのかがわからない。
だが、タマキは聞く気はないらしく、オミは嬉しそうに後ろから俺に抱きつく。
キヨタカを見ると、いいじゃないかとでもいうふうににやにやとこっちを見ていた。
「じゃあ、次いこうか。あ、シナリオはちょっと改変のつもりで進めるぞ」
「改変シナリオ俺が書くよ」
「だめ、俺が書く」
「おい待てお前何企んでるんだタマキィィィイッ!!」



「意外だね、カゲミツくんがタマキちゃんにあんなふうに言うなんて」
「だね」


To be continued
100418
加筆修正 100914