サヤオミ?

カゲ(→?)←オミ前提
※続編ネタバレ有
※ヤンデレ





首筋を、男にしてはしなやかな細い指に撫でられて、不覚にもびくりと身体が跳ねた。
思わず、ベッドの上で座り込んだままで身を引くが、すぐ後ろは既に壁で、これ以上下がることはできない。
そもそも、相手は俺の足の上で、下がったところで離れられるわけでもないし、その上立ち上がることも、無理だ。
押し退けるのは簡単だが、その後ナイフが飛んでくることは容易に想像できて、迂闊に抵抗も出来やしない。
俺は彼みたいにさして素早いわけでもないし、彼の投げるナイフは的確だ。
態と急所を外してくれてるのに、下手に動いて急所に当たっちゃいましたなんていったら話にならない。
結果、俺は抵抗らしい抵抗はひとつも出来ず、相手に従うしかないのだ。
「オミ……」
肩まで手を滑らせ、そこに体重をかけて身を乗り出したかと思えば、耳元に唇を寄せて囁かれる。
それは、慈しむような優しい声音。
「…っ。どう、いう…つもり」
今までに聞いたことの無いような、場違いなようで、そうでないよな、彼の声に戸惑って、情けなく震える声で途切れ途切れに問う。
「どう、って」
ぽつ、と呟いて、俺にのし掛かるようにしていた身体を起こすと、真正面から視線を捉えて、す…と目を細めて微笑む。
20年以上彼を見てきて、他人に向けられたことはあれど、俺に向けたことは一度もない、何か裏を含んだその表情。
それに僅かながら確かな恐怖を覚え、逃げなくては、と本能で察知する。
どうにかしてここから逃げ出さないと、取り返しのつかないことになるような気がして。
応えを聞く前ならまだ間に合うと、なんとしてでも今逃げなければいけないと、脳が命令する。
彼の唇が動くのを視覚が捉える。
お願いだ、まだ、言わないでくれ。
戻れなく、なる――。
「オミ……――貴方を、私のモノにしたい」
何も、言えない、喉がからからに乾いて言葉が出ない。
愛の告白? これが? まさか、こんなの。
「貴方は、私を見てくれない、私のモノになってくれない。……なら、捕らえるしか、捕らえて閉じ込めるしか、ないじゃないですか」
どこか辛そうに、彼は告げる。
「好きです、オミ。貴方のことが、ずっと、ずっと」
「さ、や…」
彼の言葉から逃れるように、乾いた喉から声を絞り出す。
それに対し、彼はふっと自嘲気味に口元に笑みを浮かべた。
「貴方の言う、"サヤ"って、誰でしょうね」
「え…」
思いもよらない彼の言葉に、無意識に疑問の声をもらす。
どうしようもない不安に、押しつぶされそうなのを、必死に堪え、どういうことか聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちとを半々に彼の答えを待つ。
「貴方の言う"サヤ"は、貴方に大人しく付き従う乳兄弟、ですか」
そこまで言って、彼は可笑しくてたまらないといったふうに唇を歪める。
「だとしたら、残念でしたね。そんなの、最初からどこにも存在しませんよ。"私<ヒサヤ>"は、貴方を欲する、一人のオトコです」
びくり、自分でも気付かないうちに震えた手に、彼の手が重ねられて、ぐいっと横に引っ張られたかと思えば、そのままベッドに押し倒される。
片側は壁で、覆い被さる彼の腕と脚に反対側も閉ざされ、逃げ道を完全に失った。
「まあ、嫌われたくないから、ずっと優しいキョウダイの皮被ってたけど…もう、ゲンカイ」
耳元でそう囁かれたかと思えば、首筋に噛みつかれる。
「ぃっ…」
やめろ、と肩を押しても、びくともしない。
舌先でつつうとなぞられ、離れたかと思えば今度は耳朶を甘噛みされて、ぞくりと全身が粟立つ。
「や、め…ッ」
いい加減にしろと背中を叩くと、途中からもうわかりきっていたけれど、認めたくなかった言葉が、耳の奥に直に吹き込まれた。



届かぬ愛の成れの果て


(いくら拒もうと、もう、戻れやしないんだよ)



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