レオvsクリスティー
 0426*

――どしゃっ、どんっ

「い…っ、たあ…!」



……いい天気で、街は平和で、ワガママ王子も呑気に欠伸をしているような穏やかな午後。
レオ兄はマギアのイグニス、とかいうやつと何やら約束があるらしく出かけてしまい、アルケインも、ヌーゴと買い出しに出かけてしまった。
出がけのヌーゴと会ったときに、ちょうどいい、帰ってきたら美味しいお菓子を出してやる。と言われてしまったからには待つしかなく、しかしその間何もすることのない俺は、城の周りをのんびり散歩していた。
美味しい、なんてわざわざつけてくれなくとも、ヌーゴの作るものはなんでも美味しいことを知っている。
しかしまあ、あえてそう言ったということは、余程の自信作なのかもしれない。
アルケインと連れ立って出かけて行ったのだから、ワインとか…いや、だったら城のワインセラーにあるので充分だろう。
なら、他のお酒?いや、もしかしたら葡萄とか、なにかフルーツ系かも。
どんなものだろうかと想像していたら、つい涎を垂らしそうになって慌てて拭う。
ああ、楽しみだなあ。
そう思いながら、城の裏手にさしかかったときだった。
不意に、地面に足が沈んだと思ったら、そのまま足を取られ、バランスを崩す。
慌てて受け身をとろうと身体を翻すも、奇妙な浮遊感といつまでも訪れない衝撃のせいで、想像より数瞬遅れてついた地面に、思い切り尻餅をついてしまった。
頭上からぱらぱらと砂が降ってくる。
一体なんなんだよと無意識に閉じていた目を開くと、ぽっかりと青空が丸く切り取られて浮かんでいた。
すぐに落とし穴だと気付いて上体を起こす。
こんなもの仕掛けるのはあいつしかないとふつふつと湧き上がるものを感じていると、案の定、穴の外からくすくすと笑い声が聞こえた。
「なにすんだよクリスティー!」
「だってアルケインもヌーゴも留守で、つまらないんだもの」
可愛らしく笑みを浮かべながら穴を覗き込んでそう言う落とし穴の犯人に、そんなのは俺も同じだよ、と溜め息。
そんなことより参ったのは思いの外穴が深いことだ。
この深さにいっそ悪意すら感じる。
「きみは一体これを掘ってどうやって登ったんだ…」
「内緒。頑張って這い上がってきてね。何度も失敗する無様な姿を期待してるわ」
「ふざけんな!……もーっ」
地上の彼女の言葉に、思わず声を荒げるが、違う、そんなことしたってしょうがない。
怒るのは穴から抜け出したあとだ。
身長の倍くらいあるこの穴は、ジャンプしたところで全然届きはしないが、幸い深さの割にさして広くはなく、両手を広げれば届くくらいだった。
手足の長さが違うのだから、彼女がそう登ったはずはないのだが、とりあえず俺は穴の壁に両手両足を突っ張って登って行くことにした。

程なくして地上に上がると、クリスティーはつまらなそうに唇を尖らせていた。
ざまあみろ。
「なんで簡単に登って来ちゃうのよ」
頬を膨らませて拗ねる姿に、ふんと鼻で笑ってやると、もう知らない!とでも言いたげに海辺のほうへ駆け出した。
「あっ、待て!」
なにもやり返せていない俺は慌ててそれを追いかける。
砂に足をとられる浜辺はひどく走りづらいが、人形だからだろうか、クリスティーはそんなものものともしていないふうに駆け抜けていく。
それに置いて行かれないように必死で足を動かしていると不意に、他と違う足の沈みかたでバランスを崩した。
それから、少しの浮遊感と――衝撃。
「いったあ…、またかよ!」
「キャハハ!あなたって単純ね!」
「うるさい!」
さくさくと砂を踏む音とともに、笑い声が近付いてくる。
立て続けに落とし穴なんか引っかかって、怒りを通り越してこんなものに引っかかる自分に呆れてくる。
服の中まで砂まみれでまったく、最悪ったらない。
「ふふっ、文句は出てこられたら聞いてあげるわ」
「このやろう…」
先程よりも自信ありげに笑うクリスティーに、恨み言のように呟くが、これ以上は言うと更に苛立たしい言葉が降ってくる気がして口を噤んだ。
しかしまあ今回の落とし穴、砂がやわらかいせいで手をかけたところから崩れ落ちてしまって一向に登れない。
まるで蟻地獄だ。
「ほんっとうにきみはどうやってこれを登ったんだ…」
「ないしょー♪」
こちらが苛立つほどに機嫌がよくなる彼女に更に苛立ちながら、どうにか登る方法を模索するのだった。

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