(@英雄2)↑





岩陰に叩きつけられて、傀儡師は痛みというよりも、不満を色濃く滲ませて口元を歪めた。
「なんのご用でやしょう」
作っているのであろう態度で傀儡師は言う。
突き飛ばした本人であるアルケインは、傀儡師を黙って見据えていた。
「アルケイン様?」
「貴方、何を企んでいるんです」
傀儡師が道化のような態度で首を傾げると、アルケインのほうも声はいつもの調子で問うた。
穏やかとはいえない空気の中、言葉だけが軽やかに踊る。
「何も、企んでなんていやしやせんて」
マギアでも似たようなことを訊かれたなと傀儡師は肩を竦めてみせる。
彼は、何処へでも赴くし、何処へ行っても同じ感想を相手に抱かせるのだなとアルケインは思った。
「企んでいないはずがないでしょう」
静かな物言いだが、強く断言するようにアルケインが言うと、傀儡師の表情が一瞬強張った。
なんと言い訳しようか考えているようにアルケインには見えたが、ほんとうのところはわからない。
短い沈黙の後、傀儡師は先程とは違う、嘘くささは無いがひどく冷たい笑みを浮かべてアルケインを見た。
「アナタほどじゃありませんよ」
その声は今までより数段低いトーンで発せられた。
が、傀儡師の態度はまたすぐに普段のものに戻る。
「そもそも、そんなことアチキに訊いて、アナタこそ何を企んでいるんでさ」
「僕は何も。ただ、フェルトさんが疑って居たので僕も気になって確かめに来ただけです」
どこか、挑発するような笑みで傀儡師はアルケインを見るが、気にしてなどいないふうにアルケインは答えた。
その様子に傀儡師は肩を竦める。
「フェルト様…。最凶の魔女様でやしょう?初めて会ったときはびっくりしやした、まさかあんな美少女だなんて」
世の美少女戦士も裸足で逃げ出しまさあ。と傀儡師は笑う。
裸足で逃げ出すなら女神だろうとアルケインは思ったが、口にはしなかった。
「この大陸の方々は疑り深くていけねぇや。だから戦争も終わらないんじゃねぇですかぃ?」
傀儡師の問いに、今度はアルケインが肩を竦めた。
「そうかも、知れませんね」
でも。とアルケインは続ける。
「それが激化するのは、貴方のような方が無駄にかき回すからでしょう」
「それならそれこそ、最凶の魔女様に言うべきじゃねぇですかねぇ」
まるで大陸の歩みの裏で起こってきたことを全て知っているかのような傀儡師の物言いに、流石のアルケインも瞠目した。


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