(@オリジナル)





「なあんか今日ザワついててうぜぇな」
教室前の廊下を歩きながら、ぽつ、と呟くと、隣にいた祥介が不思議そうなカオで俺を見た。
「なに」
「え、田辺くん知らないの?」
「だから、なに」
祥介の微妙な物言いに苛つきながら聞き返すと、今度は戸惑う素振りを見せる。
まったく意味がわからなくてオレのイライラは募る一方だ。
「きょ、今日はね――」



――千葉くんの誕生日なんだよ。



「おい千葉テメェ!」
祥介の答えを聞くなり、何も言わず走り出し、オレは千葉のクラスに怒鳴り込んでいた。
どよめく周囲、恐る恐るといったふうで、ひとりが声をかけてきた。
「あ、あの」
「あ゙?」
「カオルなら多分まだ、体育館に…」
「チッ」
そいつの言葉に舌打ちで返し、体育館を目指す。

オレと千葉は、一応付き合ってることになっている。
一応、ってのは千葉のほうがそりゃもうしつこくアタックしてくるもんだからオレのほうが根負けしたようなものだからで。
そんなアイツのことだから誕生日なんて訊かないでも勝手に教えて、祝ってくれなんて図々しく言ってくるものだと思ってたのに。
学園の王子様の異名を持つあの外面のみ爽やか野郎の誕生日なんて、なんで人伝で聞かなくてはならないんだ。
それも、当日になってからだなんて。

そこまで考えて、ふと立ち止まる。
「あれ?オレ…」
何にそんなに苛立ってるんだ?
他人の誕生日なんてのは元より、自分のすらどうでもいいくらいなのに。
「なんで…」
アイツなんかの誕生日を知らなかったくらいで、こんな。
――誰もが知っていることを知らなかったから?
いや、そんなわけない、それなら尚興味なんてない。
――アイツが、教えてくれなかったから…?
そんなことで、オレはこんなに苛立って?…いや、傷付いて、いるのか?
そんな、ことで?

「ワケ、わかんねぇ…っ」
体育館に続く渡り廊下で、頭を抱えてしゃがみこんだ。
そういえば、オレはアイツのことを、何も知らない。
知る必要がないから。
何故知る必要がない?
興味がないから。
……違う、知らなくたって、いつだってアイツのほうからオレの側に来て、いつだってオレを甘やかしてやがったから。
アイツは、聞けばなんでも答えてくれた、好きなもの、好きなこと、嫌いな人、嫌いな科目。
誕生日だって、教えてくれなかったんじゃない。
「オレが、聞かなかったんだ……」


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