地平線を飛び越えて(@サンホラ)
夜の復讐劇エレフ編
「国へ復讐、したいと思わないかい」 月が照らす仄明るい宵闇の中、不意に背後から聞こえた声に、俺は、ミーシャを抱えたまま振り返った。 気配の無いままそこに佇んでいたのは、宵闇を集めて人を象ったような、現実味の薄い青年だった。 肌は異様に青白く、しかし薄気味悪いと言うよりは儚く見えた。 まるで、この腕に抱えた愛しい妹のような……そう、屍のような。 けれど、彼が何者かということよりも、彼の言ったことが気にかかり「復、讐……」と呟くように彼の言葉を反芻する。 「そう、復讐。貴方がその気なら、私は手を貸そう」 彼は頷いて、手を差し出してきた。 「本当はね、そちらの姫君に聞きたいんだけど、貴方がいつまでも其処を離れないものだから、私もそろそろ待ちきれなくてね。もう貴方でもいいかと」 随分な言い様だと、俺は眉を顰めた。 それを、復讐をすることへの否定と受け取ったのか、彼は手を降ろし「じゃあ…」と続ける。 「じゃあ君はそろそろ彼女から離れてくれないかな。彼女と話がしたいんだ」 その言い分に、俺は首を横に振る。 「復讐は、俺がする。けど。アンタの力は借りない。ミーシャにも何もさせない。だからもう、どこか、行ってくれ」 「ふむ」 構うなと、牽制の意味を込めてそう言いながら睨むと、彼は何故か俺の少し後ろを向こうを見てから納得したように頷き、じゃあ仕方ないねと緩く首を振った。 「なら、最後に一つ忠告をさせてもらおう。私は、貴方とは違う地平線からやってきた。同じように、金髪の変人が暫くしたらやってくると思うから、そこの姫君は、彼に会わせないようにどこか隠したほうがいいよ。それじゃあね」 よくわからないことをつらつらと言い残して、彼は宵闇にとけるようにすっと姿を消した。 どういうことだと首を傾げる俺が、彼の言い残した言葉の意味を理解するのは、それから数分後の話だ。
テッテレー
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