テレ闇?(@サンホラ)
「君は、狂気に守られているんだね」 王子の言葉はあながち間違いではなく、メルヒェンは否定しなかった。 だからと言って、肯定もしなかったが。 興味なさげに、足元の草を爪先でいじりながら、井戸の淵に腰掛けたメルヒェンは王子の話をそれとなく聞いていた。 「僕は、彼女たちを羨ましく思うよ、そして、恨めしい。嫉妬さえ覚える」 徐々に低く独り言めいていく王子の言葉に、メルヒェンは足元に落としていた視線をちらと上げて王子を見やった。 「君を守るのは、君を縛るのは、僕でありたいと、僕だけでありたいと、君を手に入れたいと。切に想う」 「傲慢で強欲な王子様だ」 王子の言葉を嘲笑うようにメルヒェンが言う。 王子は心外だと肩を竦めた。 「愛しい人を手に入れたいと願うことが強欲だ、と?」 「愛情は常に罪を孕むものさ」 「なるほど?」 メルヒェンの答えに、たしかにそうとも言えるねと王子が頷く。 「じゃあ、僕もいつか殺されてしまうかな」 「君は死んでも出直さなくて結構だよ」 おどける王子に、いたって真顔でメルヒェンが答えると、それはひどいと王子は大袈裟な泣き真似をして見せる。 メルヒェンは呆れたように溜め息をついて、視線をまた足元へと落とした。 「僕の復讐は手伝ってくれないのかい」 「私は姫君の手伝いしかしないよ」 「なかなかに偏った復讐者だね」 笑う王子に、君の好みほどは偏っていないよとメルヒェンは呟く。 ふむ、そう言われてみればたしかにそうかもしれないと王子が妙に納得して頷くのを視界の端に捉えたメルヒェンは、先程まで蹴ったりつついたりと爪先で遊んでいた草を踏みつぶすと、静かに立ち上がる。 「それに、《童話》の主人公は常にお姫様だからね」 「そうとは限らないんじゃないかな」 真顔でそう宣うメルヒェンに、王子がくすりと笑いながら問うと、メルヒェンはどこかへ歩き出してしまった。 「少なくとも、私の記す《童話》はお姫様が主人公だよ」 「なるほど、それで、新しい姫君を迎えに行くのかい」 メルヒェンを追いかけることもなく、ただその背中を見送る王子の言葉に、メルヒェンは一度振り返って答えた。 「いや…、おつかいに出したエリーゼを迎えに」
君が欲しいと言われているのに至ってスルーなメルヒェンさん(…
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