タマカゲ(@ダブクロ)





俺ね、お前と別れる気がするんだ。

宵闇の中、布団にくるまって抱きしめて、互いの温もりを感じながら眠りに落ちようとうつらうつらとしていたところで、ぽつんと転がり落ちてきた言葉に、俺は耳を疑った。
意味がわからない、だってそう言ってる今だって、タマキの手は優しく俺の背中に回っている。

ていうか、さ。

聞きたくないと、言わないでと、口にしようと思ったら、喉が妙にからからで声が出なくて。
だから、代わりにいやいやと身を捩ると、タマキは困ったように笑った。

お前に、別れたいって言われる気がすんだよね。

どういうことだそれは。
暗闇に慣れた目でタマキを見つめると、やはり、困ったように笑っていた。
俺がタマキと別れたくなる?そんなわけない、でも、タマキが俺と別れたがってるとも、思えなかった。
自惚れとかじゃなくて、離さない、とでもいうように、タマキが俺を抱き寄せたからだ。

カゲミツは、俺と別れるよ。

タマキは、今度こそはっきりとそう言った。
なんでだよ、なんでそうなる!なんでそんなこと言うんだよ!
泣きそうになりながらタマキを睨むと、タマキはどこか諦めたような、穏やかな笑みを浮かべて俺を見ていた。
その表情は、本当に穏やかだったのにどこか泣き出しそうに見えて、戸惑う。

カゲミツは、俺と、別れるんだ。

もう一度呟くように繰り返したその言葉は、自分に言い聞かせているようだった。
いつか本当にその日が訪れるとでもいうふうに、そのときの覚悟だとでもいうふうに。
俺はやっぱり声が出なくて、首を振ることでそんなことないと意思表示を示す。

別れるよ。だってカゲミツは、俺を愛していないから。

その言葉に、愕然とする。
彼は、何を言っているのだろう。
俺はこんなにも、間違いなく、彼のことが好きで好きでたまらないのに。
何故、そんなことを言うのだろう。
俺を抱きしめるタマキの腕にまた、力がこもった。

お前がそれに気付いたら、別れるんだ。

タマキは、そう言って俺の肩に顔を埋めた。
耐えられないというふうに、泣き出しそうに、語尾は震えていた。
耳元でタマキは囁く。
お前の瞳の奥にいるのは俺じゃないんだろ、と。
今度こそ、耐えきれなくなったのか、剥き出しの肩が濡れるのを感じた。

俺が、タマキを愛していない?
俺が、他の人物を求めている?
そんなはずはない、俺にはタマキだけだよ。
言おうと思ったそのとき、俺は気付いてしまったのだ。
タマキの背中に回した俺の腕は形だけで、全く、彼を抱きしめてなんかいなかったことに。

「あ、ぁ…あ、」
掠れた喉から絞り出されたのは、否定でも言い訳でもなく、ただ、情けなく引き攣れた声だけだった。
背中に指が食い込むほど俺を捕まえるように抱きしめる腕の拘束が、ひどく痛いと感じた。





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多分相手はオミではないです。
名家として、跡継ぎとして、そして、一人の人間として、この人とならきっと自分は大丈夫だという女性を見つけてしまったんだと思います、それも、無意識下で。
それをカゲミツ本人より先に、タマキは気付いてしまった、と。
それでもカゲミツを手放したくなくてでもどうしたら繋ぎ留められるかがわからなくてぐるぐるしちゃうタマキとかよくないですか(そっちか
あとカゲミツが「好き」とは言う(思う)のに「愛してる」とは言わないのは仕様です


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