(@ダブクロ)
学生時代
世間はもうバレンタインで浮き足立ってるみたいだよ。 へぇ。 やたら構ってくるクラスメイトの言葉を、いつも通り聞き流す。 それでもそんなこと気にしていないかのように、しかも、まるでさも会話が成り立っているかのように、クラスメイトは喋りかけてくる。 「昨日さ、帰りに本屋寄ったらもうバレンタインの特集コーナー出来てるの。早いよね、ついこの間正月が過ぎたばっかりなのに」 ぺらぺらと、よく飽きもせず話が続くものだと読んでいた本のページをめくる。 「ねぇ聞いてる?」 「聞いてない」 「なんだ、聞いてるならいいんだ」 さすがにページが進むほど丸きり無視されていることが不満だったのか、ぐいと身を乗り出して問いかけてきたクラスメイトに、一言返せば、満足したように元の姿勢に戻った。 聞いてないって言ってるのに。 まあ、気が済んだならそれでいいのだけれど。 「でもさー、バレンタインとかって正直面倒だよね。社交辞令ですうっていうの見え見えで渡されてもさ。大きな声じゃ言えないけど、ウザいよね、ぶっちゃけ」 「ああ、そうだな」 こればっかりは同意する。 彼と会話が成り立つことは不本意だが、バレンタインがめんどくさいを通り越してうざったい域に達しているのは俺も同じ。 俺は自分の容姿が嫌いだが、なまじ顔立ちがよく、更に言えば家柄もそれなりにいいほうなものだから、政治のにおいがぷんぷん漂う贈り物を毎年大量に押し付けられては、断るのに苦労している。 ふと、俺が考え事をしている間、珍しく黙り込んだままだったクラスメイトが気になって、ちらりと視線を上げた。 視線の先の彼は、びっくりしたように目を瞬かせている。 「?」 「か、」 俺が、なにかあったのかと首を傾げるとほぼ同時、彼の口からなにやら言葉が飛び出した。 「カゲミツがやっと真面目な返事してくれたあ!」 急に大きな声を上げて、しかもガッツポーズまでして、しょうもないことで喜んでいる相手に、ため息。 いちいちうるさい奴だ、本当に。 まあ強いて良い言い方をするならば、感情表現豊かで羨ましい。 「やっぱさあ、家柄目当てで寄ってくる奴らよりずうっと、俺に何も求めてこないお前といるのが、ずっと楽で居心地がいいよ」 「あっそ」 まあ、わからなくはない。 一々顔色伺って、家の話をしてるような奴らなんかと比べれば、しつこくてうるさいけど、下らない世間話しか持ちかけてこないこいつのほうがずっといい。 まあ、こんなこと言ったら、彼が調子に乗るのは目に見えているから言わないが。 不意に、教室の扉のところに、少女が立っているのが目に入った。 小柄で、綺麗な漆黒の髪の、可愛らしい女子生徒だ。 「おい」 机に置かれたクラスメイトの手を叩いて、ドアのほうを顎でしゃくる。 「お前の迎えだろ」 「あ、ほんとだ。サヤ早いなー、もう少しかかると思ってた」 口振りからして、彼女はなにがしかの用事をしてきたのだろう。 笑って、彼女に手をひらりと振って見せながら、クラスメイトは椅子から立ち上がって鞄を手にする。 「可愛いな、……あの子からなら貰っても良いかも」 ぼそり、思ったことが口からもれると、それ聞いたクラスメイトがふきだした。 「アレ、男だけどね」 「は、はァ?」 「前に言わなかったっけ、俺のきょーだい。カゲミツも早く帰りなよ、じゃね」 それだけ言い残して、唖然とする俺を置いてクラスメイトは帰って行った。
本屋にバレンタインコーナーできてたので。 カゲミツ視点、クラスメイトイコールオミ、黒髪の彼女イコールヒサヤ
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