もごもご(@ゼクト)





!R-18風味
ルーヘンとリュドミール

ルーヘン氏は「あっ」とか「くっ」くらいしか言わなそう。言っても「うぅっ」くらい。
ああ声上げさせてぇ。いやしかし呻き声もなかなか。
「いずれリュドミール様とは、ゆっくりお話がしたかったのです」たぎる。

※ドラマCDあと
※リュドミール様は色々あって生きていたようです
※が、地下で繋がれているようです
※病はそこそこどうにかなっているようです、医学者の本気(無理がある



腹部に重みを感じて、浅い眠りに落ちていた意識がゆらりと浮上した。
うっすらと重たい目蓋を持ち上げると、薄暗闇で自分を見下ろすルーヘンと目が合い、リュドミールはため息混じりに頭を横に向けることで視線を外した。
下手な抵抗は逆効果だということは嫌と言うほど理解しているため、これと言って退けとも邪魔とも言わずただ一言、「痛い」ともらしただけだった。
それもまた、訴えるものではなく、ただ独り言のように。
リュドミールの腹に跨り、ぼんやりとその光景を見下ろしていたルーヘンは、リュドミールの呟きにふと我に返ったように数度瞬き、「すいません傷の上でしたね」と大仰に手を広げて返した。
けれどそこから動くわけでもなく、呆れたように反応を返さないリュドミールが面白くないというふうに、リュドミールの胸に両手をついて軽く押した。
その息苦しさに、リュドミールも流石に視線をルーヘンに戻した。
「人の腹の上で寝ていたのか」
そして先程のらしくない数拍遅れた態度に対して問うてみれば、まさかと肩を竦めて返されて、ならなんだと再び問う。
「貴方の美しい御顔に見惚れていたのです」
「嘘を吐け、貴様らしくもない」
「あれ?嬉しくないんですか?」
「貴様に言われても気色悪いだけだ」
「それは残念」
ひとしきりそう会話を交わしても、ルーヘンの手はリュドミールの胸から離れることはなく、同じく体も動かされることはなかった。
リュドミールは諦めて問いかける。
「こんな夜更けに何の用だ」
「夜更けかどうかは窓のない地下に閉じ込められている貴方には知る由も無いはずですが」
「では、人が寝ているところに何の用か。これで文句はあるまい」
「ふふ、可愛らしいお人だ」
ああ言えばこう言う、というのはまさにこの男とのこんな不毛な会話のことをいうのだろうと、リュドミールはため息を吐いた。
しかしそれすらも可愛いとルーヘンはくすくす笑う。
「夜這いですよ」
「ならば私が起きてしまっては失敗だろう。残念だったな、出直せ」
「貴方は抵抗出来ないのだから失敗ではないでしょう」
「それはいつもだ」
不穏な言葉を紡ぐルーヘンとこれ以上共にいては危険だと悟ったリュドミールが、ルーヘンの熱が冷めるまでどこか他へ行ってくれないものかと逡巡していると、また、ルーヘンからくすくすと笑い声が上がった。
何がおかしい、聞こうと思ったが、聞いたところで答えは理解の範疇を超えることが容易に想像出来たため、リュドミールは口を噤む。
と、またしても、「あれ?」と不満げな声が降ってきた。
「いつもなら嫌味のひとつでも飛んでくるのに、おかしいですねぇ」
わかっていてやっているのだから、お前こそ嫌味な奴だよと、それもまたリュドミールは口にせずにただ目を逸らした。
ルーヘンが不満げに息をついたのがわかる。
やはりまだまだ若いなと口元を笑みに歪めてゆるりと顔ごと逸らした視線を戻すと、目の前にはルーヘンの小綺麗な顔があった。
まあ自分程ではないがとか、そういえば眼鏡をしていないなとか、リュドミールが頭の片隅で考えている隙に唇を奪われる。
胸に置かれた手に体重がかかったと思ったらそういうことだったのかとどこか冷静な頭で考える。
初めてなら多少なりとも狼狽えただろうが、唐突だったとはいえ残念ながら、そして本当に彼自身不本意ながら初めてではなかったため、あまり気にせず受け入れた。
これもまた、逃げても無駄だと体が知っている。
リュドミールは心の中でまた、盛大なため息をもらした。
ルーヘンは、数度、合わせるだけの啄むような口付けの後、角度を変えて、深く、ねっとりと貪るように、リュドミールの唇を、口内を、堪能していた。
熱い舌が絡み合い、混ざった唾液は組み敷いたリュドミールの口内へと流れ込んでいく。
「んっ、く、ん…」
さしたる抵抗もなく、リュドミールはそれを飲み下す。
リュドミールが抵抗する素振りすら見せないのが気に食わないのか、ルーヘンはがり、とリュドミールの唇を噛むと、そのまま解放した。
突然の解放で急に流れ込んできた酸素に噎せ込むリュドミールの唇も、いやらしく濡れたルーヘンの唇も、リュドミールの血で赤く染まっていた。
その赤を、ルーヘンの赤い舌がぺろりと舐めとる。
その口角は笑みを形づくるように持ち上げられていたのに、リュドミールに向けられる瞳は笑ってはいなかった。
「何故、抵抗をしない」
「もういい加減疲れるし、飽きる」
「年ですか」
「貴様の安い挑発に乗るのももううんざりだ」
「っ、」
とは言ったものの、だからといって現状変わりはしないことをよく知っているリュドミールは、顔には一切出さないが、心中自嘲を浮かべた。
どうせ、何を言おうと行為は続行されるのだ、不本意ながら。
しかし実際行為の度に開く傷口や、あとから至極愉しげに治療を施すルーヘンの姿にいい加減飽き飽きしていたのも本音で、うんざりしていたのもまた本音だった。
更に言えば、今は薬のためか大分なりを潜めている病と、何もしなくていい生活もとい何も出来ない生活でなまった体にはルーヘンの求める行為はいささかキツいものがあった。
そのことをルーヘンがわかっているのかいないのか。
ともあれリュドミールにわかるのは、ルーヘンがひどく機嫌を損ねているということくらいだった。
「リュドミール様は、僕のことかお嫌いで?」
「一体貴様のどこに私に好かれる要素があったか」
問いに、問いで返してやれば、ルーヘンは口元から笑みを消した。
機嫌を損ねている、というよりももしかしたらご立腹なのかも知れなかった。
どの道、気まぐれな彼らしくこのまま飽いて出て行ってくれやしないものかと、覚悟を決めたはずの頭でまた逃げ道を探し始める。
リュドミールが無表情で見上げていると、ルーヘンはゆるりと上体を起こして、胸に置かれた手も腹まで滑っていった。
それも、わざとらしく、彼のつけた傷痕を辿って、だ。
ひとつ、ルーヘンが大袈裟にため息を吐く。
そしてうっとりしたような表情で、それでいて静かな怒りを秘めた瞳でリュドミールを見下ろして口を開いた。
「貴方の頭の中、……こじ開けて覗いてみたい」
ぽつり、こぼされた言葉は、以前にも言い回しこそ違えど聞いた言葉で、そんなことせずとも、ルーヘンには自分の考えが読めているのではないかとリュドミールは眉を顰めた。
しかし常ならその程度の表情の変化にも、笑ったり挑発したりと口の減らない相手の、珍しく静かな様子に、不思議そうに視線をやる。
ルーヘンの視線はどこか、リュドミールの視線よりもずっと下に落ちていて、絡むことはなかった。
「でも」
ぽつり。
聞こえた声は、普段の自信に満ち溢れたものとは比べものにならないほど、か細いもので。
「こじ開けたところで、貴方の考えが読めるわけでもないのに」
更に続いたその、今にも震えそうなのを必死に保ったような声に、リュドミールは思わず、ルーヘンへと手を伸ばしていた。
それは、無意識だった。
軋む上体を片腕で持ち上げて、もう片手はルーヘンの頬に触れていた。
彼は泣いてなんかいないのに、乾いた頬から目尻へ、涙を拭うようにリュドミールの親指は辿っていった。
そのまま、顔の横に添えられた手の人差し指と出会ったところで止まったきり、離すでもなく、だからといってまた指が頬を辿るでもなく、ただ留まる。
リュドミールの視線はただ心配そうにルーヘンの顔を覗き込んでいた。
「おかしな、人ですね」
一瞬驚いた顔でリュドミールを見たルーヘンは、けれどすぐにまた視線を落として自嘲気味に笑う。
「涙なんか、出てませんよ」


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