めぁへん(@サンホラ)
エリーザベト、君は。 言い掛けて、やめる。 それより先に、エリーザベトが口を開いたからだ。 「メル、幸せよ、私」 貴方が、何も覚えていなくたって。 貴方が会いに来てくれた、それだけで。 エリーザベトが柔らかく微笑む。 「メル?」 背後で、心配そうにジャケットの裾を引っ張る手と声に、答える言葉が見つからなくて、困惑。 「本当に、幸せよ」 微笑むエリーザベト、心配そうに見上げるエリーゼ。 エリーザベト、君は。 唇を開いても、音が紡げず、またすぐ閉ざす。 君は、君は、何故。 私は《僕は》、君を、忘れていないよ、エリーザベト。 約束は、長い宵闇の季節の中で朽ちてしまったと思っていたけど。 なにひとつ朽ちてなんかいなかった。 君も変わっていなかった。 そう、悲しいほどに。 あのときのままの、愛しい、エリーザベト。 変わったのは、私。 朽ちてしまったのは、私。 約束を果たしに来た訳じゃない。 エリーザベトのために、此処へ来た訳じゃない。 エリーゼのために。 エリーゼが望むから。 復讐を、復讐を! なのに、何故? 何故君には私が僕とわかるんだ。 エリーザベト、君は。 「メル、駄目ヨ、此処ハ駄目、戻リマショウ」 「エリーゼ…」 「彼女ジャナクテモイイノ!誰ノ復讐デモ構ワナイノ!ダカラ!ダカラ此処ハモウ!」 「メル」 幼い少女の高い声で泣きそうに叫ぶ声と、年頃の女性の柔らかい声で愛しげに呼ぶ声と。 どちらに答えていいのかわからずに、私は、ただ立ち尽くして。 「メル!行キマショウ!思イ出サナイデ!メル!」 お願いよと泣く声。 でも、ごめんね、エリーゼ。 無理だよ、それは。 だって、忘れてないんだもの。 「ごめんなさい、メル」 コツ、コツ。 空洞に響き渡る足音。 エリーザベトが、すぐ目の前まで、歩み寄ってくる。 「エリ…」 「約束が、私の想いが、貴方を縛り続けてしまったのね」 チャリ、ザリ、カラン。 エリーザベトの言葉で、鎖が解け、砕け、床に転がる。 「イヤァァアアアアアッ!!!」 エリーゼの悲鳴が教会の硝子を震わせる、しばらくして、静寂が広がった。 「なんて。私も、貴方を待つために此処に留まってしまったけれど」 静寂の中、くすりとエリーザベトの笑う声だけが木霊して。 何故だろうか、僕の頬を、雫が伝っていった。
もうよくわからん/(^O^)\ なんかこう、メルが忘れてなかったらどうなってたのかなって、うん。
夜露に濡れた 苔を踏み鳴らす 青年の その足取りは かなしいほどに 重く
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