下と同じ設定(@英雄2)





嫌だと逃れようとシーツを蹴っても、叶わなかった。
ベットヘッドに縫い止められた両手。
同じ剣士であるはずなのに、体格のせいだろうか、力では抗えない。
それでも、じたばたと足掻いて、離してくれと懇願する。
「将軍!アルケイン将軍…!」
しかしその抵抗ものしかかるアルケインの体に、制限され、ただアルケインの名を呼ぶ。
「…っ!!」
ぷつ。
首元に噛みつかれて、その鋭い犬歯が肌に傷を付ける。
レオが息を飲むと、耳元でくすくすと笑う吐息が聞こえた。
「ア、ル…っ」
「っ」
アルケインの肩を押しながら、レオがアルケインの名を呼ぶと、その半身はあっさりと浮き上がり、レオは幾分かの自由を取り戻す。
「アルケイン、将軍?」
しかし、先程の笑みは一切消え、無表情で俯くアルケインの不穏さに、レオは動きを止めた。
「君は、いつも、そうやって……」
ぼそぼそと呟かれた呪詛のような言葉に、レオは眉を寄せる。
「またですか。貴方こそ、いつも俺を誰かの代わりのように…っ」
何度となく繰り返されていることだった、アルケインは、かつての恋人の面影を追っている、レオに、求めている。そして、代わりなど嫌だとレオが抵抗する度に、アルケインはまるで被害者のように傷ついた表情を浮かべるのだ。
「冗談じゃない!いつもそうやって!」
「それは…それは君が彼に似ているからいけない!言動も!何もかも!」
普段は落ち着き払っているアルケインが、感情を露わに声を荒げる。
知っている、彼が、いつだって置いて逝かれる身であることを。
そして、きっと自分も彼を置いて逝くのであろうことを。
それでもレオは、アルケインの言う『彼』の代わりになるのも嫌だったし、何より、レオはレオとして、アルケインのことを愛していた。
きっと、彼にまた、新しい傷跡を刻むのだろう。
それでも、好きなのだ。
だから、だからこそ。
「代わりなんて、いやだ…っ」
似ているなんて、仕方ないじゃないか。
それだけで、彼が自分を見てくれないなんて。
「いや、だよ……」
目尻から、溢れた雫が滑り落ちる。
それは次から次へと溢れ出し、シーツを濡らしていく。
仮面越しにただその様子を黙ったまま見ていたアルケインは、すいません、と呟いて寝台から起き上がった。
そのままのろのろと這い出て、部屋を後にしようとする。
「アルケイン、しょう…ぐん?」
レオは慌てたように体を起こして、引き留めるように届かない背中に手を伸ばす。
「少し、頭を冷やしてきます」
そう言い残して夜闇に消えていった背中を見送ったあと、取り残されたレオはただ、シーツを手繰り寄せて抱きしめ、幼い迷子の子どものようにただ、泣きじゃくった。


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