たいせつなもの(@ゼクト)
「なあ、レキシ」 登りかけた石段の一番下から声をかけられた。 振り返ると、そこではロークが、いつになく真剣な顔をして僕を、見上げていた。 目が合った瞬間、すいと逸らすように俯いてしまったけど。 ロークが、何か大事なことを言おうとしてるというのは、なんとなくわかった。 「どうした?」 片足を一段上にかけたまま、いつだって再び歩み出せる姿勢で僕は彼を見下ろしていた。 ただでさえ低いところにいるのに、顔も下げてしまっているロークの顔は、僕からは見えなくて。 彼が何を言い出したいのかまではわからない。 だからって急かしたところで言ってくれるものでもなんだろうって思ったから、ただ黙って、口を開くのを待つ。 「……レキシは、」 届いたのは、ひどく頼りない、小さな声だった。 風でも吹いたら、掻き消えてしまいそうな、そんな声だった。 「?」 首を傾げた僕と、何かを決心したように顔を上げたロークの視線がかちあう。 今までに見たことのない、真剣な表情。 「レキシは、守りたいものが、あるか?」 「…………ロークは?」 祖国を盲信し、愛していた。 護りたくて、騎士の道に足を踏み入れた。 けれどその先で知ってしまった民を裏切り続けてきた祖国の姿に、祖国を護るために覚えた剣を、祖国へ向けた。 そんな僕に対して、ロークの問いはひどく滑稽なもので、平静を装うのには同じ問いを返すことしか出来なかった。 目が泳ぎそうになる。 けれど、そんな姿は彼には見せたくなかった。 陳腐で幼いプライドだってわかっていても、それを取り払うことが出来なかった。 「俺は、あるよ」 真っ直ぐ見上げてくる、ロークの視線が、眩しい。 「へえ。じゃあ、せいぜい最後まで守り抜くんだな」 目を合わせて居られなくて、背を向ける。 上段にかけた足に、重心を乗せた。
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