どさり。
目の前に倒れ伏す大男に、少年はぱちりと瞬いた。
「おや」
その隣、包帯だらけの男は感嘆の吐息を吐いた。
「君は全く動じないんだね」
あの馬鹿息子たちより落ち着いてていいね。
にこりと微笑む男の顔を見、少年は一歩、死体に近付いた。
「こら」
優しくそう言い、男は少年の肩を捕まえる。
「あまり、近付いてはいけないよ。危ないからね」
男の言葉に、少年はこてりと首を傾げた。
恐怖知らずで好奇心旺盛な少年に、男は苦笑を浮かべる。
「近付きすぎれば、あれと同じようになる」
男はあれ、と、死体を指差して言う。
何故?
言葉を持たない少年は、光を失った男に伝わるよう、男の袖を引いた。
「あれを死に至らしめた毒が、僅かだがあれから発せられてるからね」
だから、死体に不用意に近付いてはいけないんだよ。
他にも何があるかわからないからねぇ。
穏やかに語る男の言葉を聞いているのかいないのか。
少年は、すん、と鼻を利かせ、顔をしかめた。
「ほらね。近付いたらもっとひどいよ」
相変わらず、物騒なことを穏やかに語る男の背に、少年は隠れる。
「毒は嫌いかい」
その問いに勢いよく幾度もこくこくと頷く少年に、男は「だよねぇ」と静かに笑った。


pRev | NeXT