わたしにすこし、じかんをください。

戦場からまっすぐにここへ向かってきたのであろう男は、そう呟いてベッドに倒れ込んだ。
しょうがない奴だなと呟きかえしながら近寄れば、案の定引きずり込まれてそのまま組み敷かれる。いつものことである。
「しょうがないと言いつつも相手をしてくださるあなたが好きです」
「こんな安いもんでよければいくらでも切り渡すさ」
熱に浮かされた奴の言葉に意味はない。それにおどけて返す俺の言葉にもまた、意味などない。
ただ、戦に出ると、人を殺すと気が高ぶってしまうからその処理をしにここへ寄るだけ。
俺は研究で煮詰まった思考をどろどろにして吐き出すためにその相手をするだけ。
それだけ。
俺たちの間に特別な感情は存在しないのだ。
否、それはどうやら俺のほうだけであるようなのだが。
奴の言動曰く、俺のことが好きらしい。
愛とか恋とかそういう類のやつらしく、それをかわすのは至ってめんどくさい。
「ねぇ、キス…」
「やだよばーか」


って、何度言ったらわかる?
好き、大好き、あいしているんです。
唇へのキスはいや
まるで好きあってるみたいじゃないか
キスしていい?
唇以外ならどこでも
贅肉どころか筋肉も薄い胸なんて楽しくなかろうに
胸骨が好きなんじゃ仕方ない
キスしていい?
だからやだってば
あなたが嫌がることはしたくないんですけどね
じゃあもう諦めろよ
でもキス、したいんですよ
不意打ちとは卑怯な!


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