傀儡師(@英雄2)





押し倒して太腿の内側を指先でなぞると、いやいやとそれはもう全力でじたばた暴れるものだから、「初めてでもないでしょうに」と意地の悪い言葉がこぼれ落ちてしまった。
と、頬を赤く染めて、目尻には涙まで浮かべてキッと睨み上げてくるものだからたまらない。

普段は前髪に隠れてなかなか伺い知ることのできない彼の表情を、暴き出すのが好きだ。
普段、にやにやと口元に笑みを浮かべているときは目は笑っていないし、つまらなそうにしているかと思えば、ひとをあざ笑うかのように目で笑っていたりして。
まったく、他人にどう見えているかをよく理解して計算しているくせに、ひとたびその余裕を打ち崩してやればすぐに慌ててしまって。
その前髪を掻き上げてやればそれこそ見せるのは思春期のこどものような素直になりきれないけれどだからといってそれを覆い隠すこともできない、多分、彼自身は一番嫌いな表情がそこにあって。
ほんとうに、そんな彼を見ているのがひどく愉しくて。
他にはどんなカオをするのだろうと身体を重ねたのがはじまり。
そして冒頭の言葉。
そう、だから別に、彼が誰にでも足を開くとかそういう嫌味ではなくて、既に数回僕と行為に及んでいるのである。

毎度、じたじたと暴れて嫌がるものの、少々体力に欠ける彼はすぐに疲れて抵抗する力を失ってしまい、僕の為すがままになる。
しかしそれもそろそろ飽きてきたし、いい加減もう少し違う表情を見せてはくれないものかと思いながら、彼が勝手に自滅するのを待つ。
が、今回はすぐに暴れるのをやめ、むすっとむくれてしまった。
今までと違う様子に、思わず手を止めて顔をずいっと近付け、揺れる瞳を覗きこむ。
一瞬、驚きのような、戸惑いのような表情を浮かべたものの、ぷいっと顔を背けられてしまった。
なんだかんだで流されやすい彼は、逃れられないと諦めると眉間に皺を寄せながらも、大人しくなるのだが、今回はそうはいかないようで、まずは機嫌をとるべきかと一旦顔を離した。

「今日はまた、一段とご機嫌斜めですねぇ」
「……」
優しく、頬を撫でながらそう言うと、彼はちらりと目だけでこちらを盗み見て、すぐにまた視線を逸らした。
なにか、言いたいことでもあるのかもしれない。
「なにかあるのでしたら、ちゃんと言っていただかないと、わかりませんよ?」
ね?と首を傾げて見せれば、じっとりと睨みつけられてしまった。よく見る余裕のない、泣き出しそうになるのをこらえる生意気で強がりな目つきではない。
暫し、僕のほうも口を閉ざして目を合わせたままいると、観念したのかすいっと視線を逸らして小さな声で言葉を紡いだ。
「―――ぃ」
「え?すみません、小さくて何と言ったか…」
「ズルいって言ってるんだ!」
聞き逃して問い返すと、急に声を荒げられて、思わず少しだけ身を引いた。
「…ズルい、ですか?」
残念ながら思い当たる節が多すぎて、彼が何かを言いたいのかがわからない。
なるべくこれ以上は機嫌を損ねないように気を配りながら、問いかける。
「そうだよ…、アンタはズルいんだ。
自分ばっかり、こっちのカオ見て…楽しんで」
顔を背けて、面白くないとばかりに目を伏せ、時折こちらをちらちらと見やりながら小さく訴えてくる。
それは、つまり、なにか。
「貴方も、僕の素顔が見たい、と?」
「そっ、そうだよ……ッ」
頬を染めて、吐き捨てるようにそう言う彼に、なるほど、と息を吐く。
彼も、覆い隠しておきたい何かがあるだろうに、僕はそれを興味のままにこちらの勝手で暴いている。
対して、常に余裕まで飲み込まれてしまっている彼は、ただ暴かれるままでこちらを暴きにかかってこないし、僕だって自分から晒したりはしない。
これはフェアではないし、紳士として思いやりに欠如していたかもしれない。
しかしながら、彼がこちらにそんな興味を抱いているとは思いもしていなかったのだ。
「アンタがその、マスケーラ、外すまで……」
今日は、絶対折れないからな。





マスケーラ?マスケラ?マスケ?

傀儡師さんはツンデレで且つ全部無意識で相手を煽っちゃう生粋のネコ体質で、
人形使いさんは計算ずくでドエスでリバなビッチだといい。


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