魔導人形(@英雄0)





お題配布元腐乱犬





人の死というのはひどくあっけなく単純で一瞬だ。
しかし、その傷というのは心に深く大きく根付き、長く纏わりつき僕を苦しめる。

「人形使い、さん?」
「…ん?ああ、アンタは…ネクロスのえっとぉ、アルケイン、だっけ?」
「えぇ、はい」
訪ねたのは、人形使いの住む館。
彼の手で作り出される人形は可愛らしく、大陸の住人の間でもなかなかの評判を誇っている。
しかし彼の求めるものはそんなことではなく、評判はそんな彼の求めるものの副産物でしかなかった。
彼の求めるもの、大陸一の魔導人形を生み出すこと。ただそれだけ。
そのことを知っているからこそ、僕は彼を訪ねたのだ。
「お願いが、あるんです」
「なんだか知らねぇけど却下」
ぽつり、僕の言った言葉に、ぴしゃりと彼が答える。
「僕まだなにも言ってません!」
「なんかロクでもないこと頼まれそうだったから」
「……」
彼の言葉に黙り込む。
たしかに、僕としてはそりゃあ大変何よりも大切で大事(おおごと)で真剣なのだが、他人からしたら下らなくてロクでもないことだろうかと思ったから、なにも言い返せなくなったのだ。
「ほらね」
口を噤んだ僕に、彼は肩を竦める。
「言い返せねぇのがその証拠だ。さあ、帰った帰った」
彼はそう言って、しっしっ、と追い払う仕草をすると、彼の周りを埋め尽くす人形たちへ視線を落とす。
それにつられて落とした視線。
愛らしい少女たち……いや、女性であろう。
半ば確信を持って、僕はそう思った。
この人形たちは、かつて彼が、この目の前の人形使いが愛した女性の――。
「チッ。なんでぃそんな。うちの子たちがなんかしたかい」
黙り込んだまま人形たちを眺める僕に、人形使いは忌々しげに舌打ちをして僕を睨み上げる。
「いえ、その、この、人形は――」
そう呟いた言葉に、人形使いはもう一度舌打ちをしたあと、諦めたように息をついた。
「ハァ。アンタ、気付いてて此処へ来たのか」
「やはり、この人形たちは、貴方の」
「エリザベータは、愛らしい少女だった。まだ俺もそのころは普通のガキだった」
僕の言葉を最後まで聞かないまま、彼は目を伏せるように視線を落とし、水色のリボンの人形を手にする。
「彼女が死んだのは、ひどい嵐の日だった。今でも忘れられない――いや、忘れないために、この人形を作ったんだ」
語りながら、人形の頭を撫でる手は至極優しい。
「なら、」
「だから嫌だ」
言い募ろうとする僕を、彼は鋭く遮る。
僕は思わず声を荒げた。
「何故!」
「アンタは不死だっていうじゃないか。だったら、こんなのいくつあったって足りやしないだろ、虚しいだけだ」
「それは、貴方のことですか」
哀しげな瞳で語る彼に、返す言葉は常の通りはいかず自然、かたくなる。
こちらの情けない必死さを感じ取ったのか、彼は口元に皮肉めいた笑みを浮かべて空虚を眺めた。
「そうだよ」
ぽつり、呟かれた言葉に、彼の視線を追う。
あの暗闇に彼は何を見、何を感じ、何を託しているのか――。

何も言わなければ、この場から動こうともしない僕に呆れたのかなんなのか。
彼は深くため息をついて、もう一度こちらを見上げた。
「それでも尚、俺に頼みたいと?」
「えぇ。…こんな話をしたからには、尚更」
「面倒な奴だな」
今度こそ、わかりやすく呆れ顔を見せた彼に、笑みを作って見せる。
「僕にも、絶対に忘れたくない人が居るんです」
「ケッ」
「ありがとうございます」
諦めたように眉を寄せた彼に、もう一度笑いかけると、ただし、と付け加えられる。
「俺がアンタに作るのは魔導人形でもなんでもない、ただの人形だ。まあ、アンタがその気になれば魔導を込めることは可能だと思うが」
「僕が、ですか」
「アンタ別に、全く魔導が扱えないわけじゃないだろ」
やる気なく言い放たれる言葉に、まあ、そうですけど。と曖昧に答える。
が、こちらの答えになど興味がないのか、ぶつぶつと独り言のように彼は続けた。
「俺がやると人間の魂を喰らうようになるが、アンタがやれば違うかもしれないし…まあ構造上の問題だから代わりの何かは必要だろうが……」
うーん、と考え込み始めた彼に、あの、と声をかける。
このままだとこちらのことを忘れてひとりで考え事に没頭しかねないからだ。
魔導の探究者というのは得てしてそういう者が多いとこの長い人生の中で嫌というほど理解している。
「ともかくだ!俺様がここまでしてやるんだから、アンタにもしてもらうことがある」
「僕に出来ることでしたらなんなりと」
突然声を上げた彼に驚きつつも微笑むと、彼はまた盛大に舌打ちをしてから条件を告げた。
「俺の名前は出さずに、フェルトに伝えろ。転生出来るのはおまえだけじゃない、と。いいか、俺の名前は出さずに、だぞ」
「…、そんなことでいいんですか」
「ああ」
拍子抜けだ。
それに、そんなこと、などと言ってしまってから気付いたが、そんなこと言ってしまって怒らせたかと思ったのだが、それも予想に反して静かに返されてしまった。
「あいつムカつくんだ、魔導に関しては自分以上、どころか自分と同等の人間すらいないと思ってやがる」
まあたしかに、大陸最凶とうたわれるあの魔女は、魔族ですら自分に敵う者は少ないとまで思っているのだから。
人間ならばその程度にしか思われないのだろう。
「それくらいでしたらすぐにでも伝えてきますが…本当に誰からの言伝かは言わなくていいので?」
「ああ。…っつーかまあ、あの女のことだから気付くだろうし」
「なるほど」
妙に納得してしまって頷く僕に、そんなのいいから、と言われてしまって、彼に意識を戻す。
「で、アンタが人形にして欲しいのはどんな奴なんだ?」
「ああ、それはですねぇ――」



馬鹿を演じる気丈な狂人




補足
ゼロから数十年後。
人形使いさんの体は自分のものではない、もしくは自分の体を改造したもの。
つまりただの俺得設定\(^o^)/


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