(@英雄2)↑





高台に座り込んで、戦場を見下ろしていた。
背中に突然、とすりと重みを感じてアルケインは振り返る。
「珍しいじゃないか、君が人の気配に気付かないなんて」
背中合わせに体重を預けるレオに、アルケインは苦笑する。
「そう、ですね」
実際、背後から近付いてきていることに気付かず、ぼうっと戦場を眺めていただけのアルケインは、レオの言葉に笑うしかない。
心臓が止まるかと思いましたよ。
ついでにそうおどけると、レオは、ああはいはいと呆れたような返事をする。
背中に体重を預け、空を見上げるレオに、アルケインも、背後の人物を確認するために振り返っていた首を前に戻した。
「なにか、あったのか?」
レオが唐突に問いかける。
アルケインは、困ったように口を閉ざした。
何かがあったわけではない。
あったとしても、それはもう随分前に片の付いたことで、今更思い返して感傷に浸るようなことでもない。
「まあ、別にいいんだけどさ」
聞いたところでどうせ、俺にはわからないことだし。
いつまでも答えないアルケインに、レオはそう零して目を閉じた。

レオは、アルケインを許していない。
かつて一度は共に戦い、突然裏切って寝返ったアルケインを、許していない。
だから、背中を預けながらも、一度も目を合わせようとはしないし、それどころか顔すら見ようとしないのだと。
そのことを知っているアルケインは、忙しい身でありながら、こんなところまで訪れてきたレオの考えが解らず首を傾げた。
「ねぇ、レオくん」
「うん?」
呼びかけに答える声は、穏やかだ。
「君こそ、何かあったのですか?」
アルケインの問いに、レオは沈黙した。
答えないのならと、アルケインが言葉を続ける。
「君は、僕のことを恨んでいるのでしょう?」
君は、裏切り者の僕のことを許していないのでしょう?
呟くように、囁くように、独り言のように問いかける。
レオは閉じていた目蓋を持ち上げた。
「君は、僕のことを」
「赦しはしない」
アルケインの言葉を遮って言い放たれたその言葉は、内容の割に至極穏やかで、戸惑う。
レオは預けていた背中を離して、立ち上がった。
「でも、俺は」
離れていく体温には、アルケインは一度も反応を示さなかった。
「君を、愛しているから」
その言葉に驚いてアルケインは勢いよく振り返る。
レオは数歩離れたところで、背中を向けたまま、爽やかに吹き抜ける風の中で伸びをしていた。
じっと、アルケインが見ていることに気付いたのだろうか、首だけで振り返る。
ようやく、目が合った。
「だから、君になにかあったら、駆けつけたいと思ってしまうんだ」
そう言って照れくさそうにはにかむと、レオはまた前に向き直って歩き出してしまう。
暫し呆然とその背中を見送っていたアルケインは、慌てて立ち上がって、追いかける。
追いつくなり、何も言わないまま、レオを後ろから抱きしめた。
「アルケイン…」
「許してくれなくていいです、でも、僕も、」
君に何かあったときには駆けつけていいですか。
その言葉に、レオは笑ってアルケインの腕に触れた。
「訊く前に駆けつけちゃってるじゃないか」


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