01


古の地を一頭の黒馬が駆ける。背に跨るのは赤髪の青年。大切なものなのか、何か大きな荷をしっかと抱き締めている。
前を見据える青年の瞳に周囲とは明らかに異なる、確かにここに人が存在したことを物語る建造物が映った。砂漠の上空に建造された、長い長い石橋。相当な高さだ、落ちれば命はないだろう。
しかし青年の瞳はその先を映す。石橋の先は禁忌の地・・・そして青年の求める地。
青年は決して振り返らない。
石橋の手前で一度馬を止め、そしてゆっくりと石橋を渡り始める。一歩ずつだが確実に近付く目的地。
心が、奮える―・・・

(―・・・もうすぐ)

青年は荷を抱く腕に力を込めた。







*







「変な夢だね」

友人の率直な感想に肯定の意を込めて頷く。

「変な夢だよね」

昼休憩時の話題はいつも他愛のないもの。現在の話題は私が今朝見た夢について。会話が途切れたから場繋ぎで話しただけなんだけど、思っていたより友人達の食いつきがいい。

「随分とファンタジーチックよね」

「寝る前に漫画読んだとか」

「全然」

「んー・・・予知夢的な?!」

「まさかでしょ」

「あーっ!でもアタシ、夢に出てきた人が運命の相手なのよってお母さんに言われたことある!」

「げえっ!?じゃあうちの運命の相手って数学のタニーじゃん!」

「うっそ、あのカッパ?!」

「まじウケるー!」

その後もどんどん脱線していく会話。私の夢の話は何処へやら、校内のかっこいい男子について熱く語り合っている友人達。その手の話に疎い私はいつもの如く適当に相槌を打つだけ。勿論、話の内容なんて聞いちゃいない。

(それにしても)

運命の相手とは、これまたロマンチックな話だ。全然信じていないけれど。もしもそれが本当だとしたなら、私が運命の相手に出会える日は一生こないということだろう。何せ夢で見たあの世界は私達のいる世界とは違う。どうしてそう言えるのかはわからない。でも違うと言い切れる。何かがそう言い切らせる。ちょっと不思議な感覚だ。
ぼんやりと自分の思考に耽っていたら、いつの間にか話を振られていたらしく、友人がぶすっとこちらを睨んでいた。聞いてるのって、ごめんね聞いてないよ。
その後も続く他愛もない会話。先生がどうした、隣のクラスのあの子がどうした・・・正直、私は友人同士のこういった会話があまり好きではない。ただ話を合わせて、友人の気を悪くさせないように、嫌われないように、そんな会話の仕方。

「そう言えばさぁ・・・ほら、あの子!また一人でお弁当食べてる!」

「ほんとだー」

友人が指差すのは中庭。そこには木を背凭れに芝生に座って一人黙々とお弁当を食べる女子生徒がいた。私達と同じクラスの、名前は何ていったかな。彼女は何をするにもいつも一人だ。それをクラスの人達は笑う。暗い子だ、変な子だと。

「いつも一人だよね。ほんっと暗ぁい」

「いやいや、友達いるっしょ?」

「え、うそっ!?」

「いるじゃない、本のな・か・に!」

「ああ、そういうことかぁ!」

クスクスと笑う友人達。私はただ彼女を見詰めていた。
彼女はお弁当を食べ終わると一冊の分厚い本を開いた。皆が言っているのはそれのことだ。私は直接見ていないから知らないけれど、噂ではいつも同じ本を読んでいるらしい。だから本の中に友達がいるなんて言うのだろう。
皆が彼女を笑う。独りだと。
でも、私には笑えなかった。
友人同士の会話に苦を感じても、くだらないと感じても、それでも結局は独りになりたくなくて嘘をつく私には、彼女を笑うことなんてできなかった。
どこかで彼女を羨ましく思う私がいる。
でも、やっぱり独りになる勇気なんてなくて、結局はこれからも嘘をつき続けるんだろう。

(なんだろう・・・なんか、)

なんか、疲れた。全部、全部。
もう一度ちらりと彼女を見た。彼女は泣きも笑いもせずに本を読み続ける。
彼女の瞳には余計なものなど映りこまないのだ、きっと。
・・・今日は早めにお風呂に入って、さっさと寝てしまおう。
きっと明日になれば、こんな疲れも消えるはずだ。






[ 2/4 ]

[prev] [next]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -