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今日は大人気ゲームの新作発売日。
普段は閑古鳥が鳴いているこの店も、商店街唯一の玩具屋として朝から大盛況である。
開店と同時に店内には長蛇の列ができ、以降も続々来店しソフト片手に列に並ぶ客層を見ればこのゲームが幅広い世代に支持されていることがよくわかる。
この店では予約は受け付けていないので販売は入荷分のみとなるが、それも当初予定していた以上の大盛況でお昼前には完売してしまった。
そうなってしまえば客もこんな店に用はないとでもいうように一人二人と帰っていき、物の見事に数分でいつも通りの閑古鳥鳴く店に元通り。
店側にしてみれば客がいないのは残念なことかもしれないが、あたしにとっては待ちに待った時間の到来である。
「お疲れ様!今日はありがとうね」
「これくらいで確実にゲームが手に入るなら安いもんだよ」
実は今回、発売当日に店を手伝うかわりに通常受け付けていない予約を受けてもらったのだよ!
これで今日発売のゲームを確実に手に入れることができる。
小さい頃からせっせと通い続けた常連だからこその特権。
店長と仲良しだからこその特別待遇である。
「それにしても大盛況だったなぁ」
「何せあのポケモンだからね」
大人気ゲームとはそれすなわちポケモン。
あたしがゲームにハマったきっかけであり、今なおあたしを含めた世界中の人々を魅了してやまないゲームだ。
予定より早く手伝いも終わったことだし、今日はこれから家でまったりプレイを、とも思ったがいやちょっと待て。
「ねえおっちゃん、暫くここでプレイしていってもいい?邪魔にならないようにするからさ」
「構わないけど、どうかした?手伝い終わったら家に引き籠るって言ってたでしょ」
「そうなんだけど、」
この時間はまだ家にお母さんがいるんだ・・・!
予定より長くプレイ時間がとれるのは喜ばしいことだけど、今帰ったら確実にお小言貰ってしまう訳だよ。
普段からまだゲームなんてしてるの、もう小さい子じゃないんだからゲームなんてやめなさい、勉強はちゃんとやってるの、と耳にタコができる程言われているんだから今日だけ特別とはいかないだろう。
「まあ、ゲームをやらない人にはなかなか理解されないもんだし、勉強も大事だし」
「友達にもまだポケモンなんてやってるの、とか言われちゃうし。そいつ、昔は一緒にポケモンやってたんだよ?」
小さい頃は通信対戦も通信交換だってやったのに。
「お互いお小遣い少ないからソフトは別バージョン買ってさ、出てこないポケモンを交換して図鑑完成目指したり・・・今は自分で両バージョン買って一人ポケモン交換・・・寂しいもんだわ」
「一人でも十分楽しんでるくせに」
「まあね!」
「ゲームやるもやらないも本人次第だし、仕方がないってことで。それより、ゲームやるなら○○ちゃんのソフトはあっちの棚にあるからね。僕は外の掃除してくるから、あ、お金は適当にレジに入れておいて」
「はーい」
あっち、と言われたのはバックヤードにある様々な物が乱雑に置かれた棚だった。
大分昔に発売されたハードに希少価値のあるレトゲ、注文票や領収書なんかもあるけど・・・これのどこにあたしのソフトがあるんだいおっちゃん。
ちょっとした宝探し状態になっているんだが。
まあ、あながち宝探しというのもあたしにとっては間違いじゃないのか。
事前情報は勿論チェック済みだけど、発表されていない新ポケモンはどんな姿をしているんだろう。
ストーリーはどう進んでいくのか。
ジムリーダーに四天王、チャンピオン、それにバトル以外の要素も気になるし、ああもう、楽しみすぎる!
ポケモンに惹かれる理由は人それぞれあるだろう。
育成が好きな人もいれば図鑑のコンプリートに燃える人もいるし、バトルでより高みを目指す人もいる。
あたしが惹かれたのはポケモンの世界そのもの。
緑の平原、深く青い海、高くどこまでも続く空。
そして人々の側にはいつだってポケモンがいる。
ゲームで主人公となる少年少女はポケモンと共に旅をし、成長し、そしてチャンピオンになって・・・絶対に実体験できないことだからこそ惹かれ、そして夢想する。
こんな世界に行けたら、と。
初めてポケモンの世界に触れた時から抱いている世界への憧れが今も続いているのだから、あたしも大概夢見がちだよなぁ。
それにしてもソフトが見付からない。
本当にこの棚にあるのか?
手前ばかり探していたけどもしかしたらもっと奥にあるのかも、と手を伸ばしたら丸い何かに指がぶつかった。
「んん?これは・・・おお!モンスターボール!」
モンスターボールを模ったグッズは数あれど、これ程まで質量感や細工が本物らしいものは見たことがない(そもそも本物を見たことがないけど)。
見たところ値札はないが、売り物じゃないのかな。
綺麗に二色に塗り分けられた表面はつるりとしていて触り心地が良い。
見た目は完璧にモンスターボールだ。
中はどうなっているんだろう。
これって開くのかな。
好奇心から開閉ボタンを押すと、開いたモンスターボールから眩い光が溢れ出した。
「えええ?!な、何これ?!」
力任せではボールは閉じず、溢れだす光のあまりの眩しさにあたしは目を閉じた。
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