お弁当後の5時間目、気持ちがいい陽気、そよ風の吹く日
…眠い。
杞都は心中で呟き、噛み殺すこともなく欠伸をする。
今の私の席は、窓側の列の一番後ろという素晴らしいポジション。
そして今日は暑過ぎない程度の陽気に、優しいそよ風というこれまた素晴らしいオプション付き。
更に言えば今の授業は昼食後の五限、教科は国語。
つまり担当教師は…
「だからァ〜コレをココに代入してェ〜」
「先生、珍しく授業っぽいこと言ってるとこ悪いんですけど、今は国語の授業中です。数学じゃありません。つーかアンタ国語担当でしょーが。」
「あ?そーだっけ?」
既に半分寝ているような状態の銀八。
新八がもー、しっかりして下さいよ。と言うのに、
あー、等と適当に返している。
よし、これだけの環境が整った今、昼寝以外に道は無い。
と勝手に決めつけ、寝ることにする杞都。
「土方」
隣を向いて小声で名を呼ぶと、土方は切長の目を何だ?というように少し開き、視線だけをこちらに送る。
土方はイイヤツだと思う。
瞳孔開き気味だけど優しいし、短気だが面倒見もいい方だ。
それに、マヨに関して以外はこのクラスには珍しい常識人だし。
マヨに関して以外は。
「ごめん、終わり五分になったら起こしてくれない?」
頼むよ、と言うように片手を顔の前まで上げると、
土方は口角を微かに上げてフ、と笑った。
「確かに今日は好い昼寝日和だな。」
そう言って、窓の方を見て小さく笑む。
どうやら了承してくれたらしい。
「ありがと」
杞都もそれに笑い返し、机に身を伏せて眠りについた。
土方は眠る杞都を見つめる。
中性的な整った顔立ち。さらりと流れる艶やかな髪。穏やかな寝顔。
気持良さそうに寝やがって…
千咲の頬にかかる髪を指先で払うと、擽ったそうに身じろいだ。
その姿に小さく笑みを溢し、前方の銀八と志村弟を見やる。
「もーさぁぶっちゃけ寝ちゃってよくね?お前らだって寝てぇだろ?」
「ふざけんなよ!アンタそれでも教育者か!!真剣に聞いてる人も居るんですよ!?」
「んーなの放っときゃいーじゃねーかァ。聞いたって仕方ねーだろこんな話。何もなんねーだろこんな話。寧ろ馬鹿になんだろ馬鹿に。つーか聞いてるヤツなんか居ねーよ。精々2、3人しか聞いてねーよコレ」
銀八の珍しく的を射た切ない発言に苦笑する。
志村弟の
イヤ、アンタが聞く価値のある話すりゃ良いんだろーが!
とかいう怒鳴り声が聞こえるが、
千咲は寝入っているらしく、起きる気配も無い。
土方は喉の奥でクツクツと笑い、自分も姿勢を下げる。
暫し千咲を眺めていたが、この姿勢は意外と寝心地が良い。
日々の疲れも重なって、段々と瞼が重くなってきた。
遠くの方で「パチパチペア」が未だにもめている声がする。
千咲のこと、起こしてやれねーかも知れねぇな…
そんな事を思いながらも、優しい睡魔に誘われるままにゆっくりと目を閉じ、土方は意識を手放した。
「うーるっせぇなァいーじゃん別に寝てもさぁ。お前は俺の何なの?姑か、姑なのか」
「違ェよ!つかいい歳こいたオッサンが“いーじゃん”とか言うなよ気持悪いな!」
うっわ酷い新八君!と嘆いたフリをしながら、銀八はさり気なく窓側の方向に視線を流す。
そこにはすやすやと眠る杞都と、珍しく眉間の皺を消し、穏やかな表情の土方が。
ったくアイツ等…
それを見て銀八は静かに笑った。
「?…どうしたんですか? ニヤニヤして」
「お前な、そこは“ニコニコ”って言えよ。」
返しながらも優しく笑っている銀八に、新八は首を傾げる。
なんとなくムカつくから、今度仕返のつもりで
“仲良く昼寝たぁ見せ付けてくれるじゃねーか”
とでも言ってやろうか。
その後のアイツ等の反応が楽しみだ。
さて、いつ言ってやるかね…
銀八は楽しそうに笑い、もう一度そちらを見る。
幸せそうな二人の頭上を、小さな蝶が舞っていた。
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