短篇 | ナノ



迷子になった時の対処法 (1/2)



「は、はあ…そっち、居たか?」

「いや…こちらには、居ないようだ…」

「おれの、さがしたトコにも…居なかったぜ」

「チッ…しかたねー、もう少しとおくまでさがすぞ」

「分かった」

一度集まった三人の少年たちは互いに頷き合うと、再び散り散りに走って行った。

「くそっ、どこ行きやがった…」

黒紫の髪を持つ一番小柄な少年はその整った眉を寄せ、早駈ける心臓を宥めるようにトントンと軽く胸元を叩きながら走り続ける。

きっと自分に見付けられるのを待っているだろう想い人を探して。

「杞都…!」





周りを見渡しても近くに家も人も、そればかりか犬猫の姿すら無い。
あるのはそこかしこで高く伸びた木々と地面に生えた草、そして足元に転がる石くらいのものだった。

「うーん…」

小首を傾げるその少女は濃紺に白抜きでアヤメの柄がある着物を纏っており、
その裾をたくしあげて深紅の細帯に挟み、下にはぴったりした黒い股引きの様な物を履いていた。
そして袖は帯と同じ色の襷で止められ、おまけに僅かにつっている両の目尻には明るい朱色の化粧という、とても子供とは思えない奇抜な格好をしていたのである。

「これはアレだ、迷子だ」

ポンッと手を叩いて暢気に切り株に腰掛ける杞都。

“迷子になった時の対処法その1”

「慌てず動かない」

先生に教えられた事を暗唱し、歩くうちに緩くなってしまったらしい髪紐を解いた。
一番長い箇所が肩に丁度付くくらいの癖毛の一部を後頭部で小さな髷にし、帯や襷と揃いの深紅の髪紐で縛り直す。

“迷子になった時の対処法その2”
周りのお店の大人に聞く

「でも周りにお店無いからこれはだめ」

むう、と唇を尖らせ順番に指を折る。

「お店だけじゃなくて誰も居ないもん…」

どうしよう、と首をひねり考えていると、ふと記憶が頭を過った。


『周りに誰も居ない場所に行ってしまった時はどうするか?…そうですね』


彼女の質問に先生は少し考え、クスリと笑って内緒話の様に教えてくれたのを思い出した。


“迷子になった時の対処法その3”

『これは杞都だけが使える、とっておきの最終手段ですよ』


そう言って悪戯っぽく笑った先生の顔を思い出し、杞都は嬉しそうにふわりと笑った。

「よし、最終手段だ」

そう呟くや否や彼女はさっきまで座っていた切り株の上に立ち上がり、思い切り深くまで息を吸う。

そして杞都は笑顔のままで、


「晋助ェェェェェェェェェェェェェッッ!!!」


腹の底から、吼えた。




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