短篇 | ナノ



サンタが家にやってきた



トタトタと走ってくる軽い足音が聞こえる。
しかし相手が誰なのか分かっているため、銀時は敢えて出迎えずリビングにある自分の椅子に座りジャンプを読んでいた。

そして施錠されていないままの玄関から誰か入ってくる音がして、リビングの戸がスパーン!と勢いよく開かれる。

「銀時!」

「んー?…って、ぶっ!?」

突然入ってきた杞都の声に視線を上げ、銀時は思わずジャンプを落としそうになった。

「またジャンプ読んでんの?好きだねぇ」

「…なに、やってんの」

口元を片手で緩く覆いながら何とも言いがたい表情を浮かべる銀時に、杞都はキョトンとしてさらりと答えた。

「何って…サンタ」

「うん分かるよ、銀さんそこまでバカじゃねーから。杞都がサンタの格好してんのくらいは分かる」

銀時は最早ジャンプを机の上に置き、あーだのうーだの唸りながら頭を掻いている。
その様子を、杞都は眉間に皺を寄せ首を傾げて何が言いたいのか、という顔で見る。

「じゃあ何?」

「何で、そんな格好してんのかってこと!」

銀時の言う“そんな格好”と言うのは所謂“ミニスカサンタ”と呼ばれるもので、杞都が動く度に揺れる帽子やスカートの裾が何とも愛らしい。

愛らしいのだが、銀時としてはあまり目によろしくない。
杞都はスタイルもいい方だし、切れ長な瞳を含む綺麗な顔立ちも手伝って目のやり場に困るのだ。

しかし杞都本人はその自覚が無いのでまたキョトンとして答える。

「だって今日クリスマスじゃん」

「うん」

「クリスマスといえばサンタじゃん」

「うん」

「だからサンタ」

「うん、だから何でやろうと思っちゃったの」

一つ一つ説明するように話す杞都に、銀時はまるで自分が何も知らない幼児になったような気分になった。

何これ、俺が間違ってんの?俺がいけないの?これは

頭が鈍く痛みだした気がしてこめかみを押さえながら訊くと、杞都はまたもやさらりと答えた。

「楽しそうだったんだもの」

「だものじゃねーよ浮かれ過ぎだろ!いやスゲェ似合ってるけどね!?」

「ありがとう」

「おー、ってそうじゃねー!」

普段あまりやらないツッコミを連発しゼェゼェと息を切らせる銀時。
しかし杞都は疲れた様子も無くけろりとしている。

「…で?ウチに来たって事ァ何かくれんのか“サンタさん”?」

そんな杞都を見てはぁ、と溜め息を吐いて問いかけるも、

「えー」

「えーっつったよ、サンタえーっつったよオイどーなってんだコレ」

不満気な声を漏らす杞都に銀時は夢何も無ェなと再び溜め息を吐く。

「サンタはいい子のとこにしか来ないんだよ」

「生憎今ウチにいい子なんざ居ねーんだけど?」

疲れた様に言う銀時に杞都は大丈夫、と言って銀時が座っている椅子の近くの机へ腰掛けた。

「大丈夫って何…」

銀時の言葉を遮るように触れるだけのキスをして、そのまま銀時を抱き締める。

「え、おま…」

「Merry Christmas, 銀時」

驚いている銀時の耳元で囁き、クスクスと笑う杞都。
その楽しそうな笑い声は、まるで悪戯が成功した子供のようだ。

「サンタ(私)が来るのは、いい子(銀時)のところだけだよ」

「!…っ杞都」

なんてね
するりと腕を離して照れ隠しの様にクスリと笑い、杞都は銀時の目の前に何かを広げた。

“高級パフェ食べ放題券(×5)+お米券(5kg×5)”

「っ!?…っ杞都ちゃんんんんんんっ!!!」

その文字を読んで銀時は目を見開き、ガバッと杞都に抱き付いたもとい飛び込んだ。
しかし銀時の勢いも凄かったが杞都も机の端に浅くしか腰掛けていなかったため、至極不安定な状態だったのだ。
結果、

「っちょ、銀、あぶな…っ!?」

「ぬおわっ…!!」

ドターンッ!と派手な音をたてて二人とも床へ倒れ込む羽目になった。

「いっっっ…たいぃぃ…!!!」

「わ、悪ィ…」

肩や腰は銀時が何とか咄嗟に庇って軽く済んだものの、頭を強くぶつけてしまったらしい。
苦しそうな呻き声に慌てて謝る銀時を、杞都は涙目でギロリと睨み付ける。

元が切れ長な目であるため、涙目であってもそれなりに効果はある。

「あー、その…ごめんな?」

「あああもう!銀時のとこなんか来るんじゃなかった!!」

「悪かったって…大丈夫か?」

優しく労るように杞都の頭を撫でて目元にキスを落とすと、未だムスッとしながらも口を閉ざした。

「杞都」

「何よ」

「ありがとな」

来てくれて、と囁いて今度は唇にキスすると杞都は目をぱちくりさせた後、

「…ん、」

小さく頷いてはにかんだ様に微笑んだ。

「来年も、俺のとこだけに来てくんね?」

額をくっつけてかわいこぶって訊いてみる。
すると杞都はクスクス笑って、

「来年もサンタ(私)を信じて(愛して)くれるなら」

サンタは信じてくれた子のところには来てくれるんだよ
そう言って小さな音を立ててかわいらしいキスを返した。

「へぇ…上等じゃねーの」

“いい子”はニィッと笑ってまたキスを落とす。
“サンタ”は楽しそうに笑ってキスを返す。


外はしんしんと雪が降る。
しかし家の中はこんなにも暖かい。









(サンタがくれた贈り物。それは小さな「愛」と「温もり」)
「約束だぜ、“サンタさん”?」
「忘れないでよ、“いい子”の銀時?」






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