おもちゃをもらった子供みたいに楽しそうにしてる影山くんを見て、きらきらしてるなって思った。
「影山くん」
「あ?」
「ごめん、へたで」
「別にいーよ」
「でも……」
何度目か分からないボール出し。大体ラリーの始まりは私が取れないか、または見当違いの方向に飛ばして影山くんが拾いに行って、のどちらかだった。真正面から見て、改めて、影山くんのすごさを実感する。
「これも練習になっから」
「相手ド素人だよ」
「だからだよ」
「え?」
「どんな悪球にも対応できるようにしねーとな」
「うわーなんか、すっ……っっごい貶された気分なんだけど」
「はっ、気のせいだろ」
本当に変な方向に飛ばさない限り、どんなボールでも影山くんは拾う。それだけじゃなくて、的確に私のいる位置まで返す。低いときはレシーブ、高いときはトスっていう二つのやり方を駆使して。すごく初歩的なことだけど、私はそのどちらでボールを受けようかっていう選択の時点で迷ってしまうから。反射的な部分もあるんだろうなとは思うけど。
的確で、正確で、綺麗。
指先が触れるその一瞬に自分の持ってる技術とか意思とかそういうものの全部を乗せて、弧を描く。
私の胸元にその繋げられたボールが落ちていく。見よう見まねで手を組み、レシーブでそれを返すとマグレだろうけどきっちり影山くんのいるところに飛んでいった。
「お、うめえじゃん。その調子その調子」
「ちょっとバカにしてる」
「してねーって。そら」
「わっ」
ぽん、と軽やかなトス。ふわりと夜の闇に浮かぶボール。その落下点には、私。
ラリーを続けてから、私は全然動いていない。対称的に影山くんは私の悪球の落下点の下に入るために動き回ってる。でも嫌味も何も言われない。
いつもとは違う雰囲気。なんていうか、すごく、楽しそう。
そんな影山くんの相手として、私はいまここにいる。やったこともないバレーを見て、実際に触れて、ボールを不器用でへたくそながらも影山くんに繋ごうと試みてる。
影山くんから見たら、何も頑張ることのない私の存在は、酷くおぼろげなんだろうな。
こうして認識してくれるようになった今を奇跡と言わずなんと言うのだろう、っていうくらい。
私が繋いだボールを影山くんは当たり前のように受け止める。ふわりとトスが浮かぶ。
それは弧を描いてやがて、ぽん、とボールが地面に着いた。
「苗字?」
ふわりと心が軽くなった気がする。
そうか、奇跡なら。それなら。
足元にころころと転がったボールを拾い上げながら、私は少しだけ。ほんの少しだけ影山くんとの距離を縮めるべく足を踏み出した。
「おい、どうした」
「……き」
「は」
「……影山くんが、好き」
いま、このときを大事にしないといけないんじゃないか。これからも続けばいいなんて願いよりもずっとずっと優先したい願いがある。
迷い癖のある私の中に、確かにそんな強い意志が生まれた瞬間だった。