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まさか彼がこんなノリに付き合うとは。超能力者だとか、そこら辺の事情は知っていて、彼の性格も知っているつもりだった。けど、まさか。

「結構積極的なんだね」
「そうでしょうか?」
「ていうか、もしかしてノリノリ?」
「まぁ、やるからには全力を出そうと思って」

いつものクールな声色と、格好とのギャップが、わたしに大笑いをもたらそうとしていた。制服姿しか見たことがなかった彼の格好が、新鮮であり、どこか違和感も持っている。文化祭まであと数日というところで中庭で見かけた彼の姿。開口一番は、何それ、だ。絶対そういうイベント事には熱心にならなそうなタイプだと思っていたのに。

「なんか。なんか、意外」
「……よく言われます」
「え、そうなの?」
「先程も、言われました」

敢えて誰、と言わないのが彼らしいと言えば彼らしい。こういう濁った言い方をするのはきっと、言われたのは女の子だな。それでもって、恐らくSOS団の誰か。
ここまで分かってしまうというのも少し悲しい現実だった。いつもと同じだ。彼はわたしに対してどこか遠慮がち。別に他の女の子の話とか、わたしは気にしないのにな。逆にそう遠慮されてしまう方がわたしには少し、辛かった。

SOS団ではないわたしだけが、蚊帳の外のようで。

「古泉君のクラスの出し物は劇?だよね、衣装ってことは」
「はい、さっきもリハーサルがありまして」
「てことは今暇?」
「休憩中ですから」
「……部室は?」
「多分他の方々がいるでしょうし、大丈夫ですよ」

遠慮がちにされた微笑も少し、気に掛かった。わたしはどうなの、と聞かれて、とりあえず大丈夫だ、とだけ答える。それで終わってしまった会話の後には無性に逃げ出したくなる無言が続いた。何か、言わなきゃ、という焦りにも似た、思考。不意に彼が、考え事をしながら、呟いた。

「何を、やるんですか?」
「え、何が?」
「貴女のクラス」
「ああ、うちは喫茶。当日忙しいだけだから、そこまで前準備は要らないんだよね」

でも同じクラスの鶴屋さんとも話したことがあったが、この準備の段階でのワクワク感が好きで、皆何かしらの行動をしている。わたしもその一人だった。活気付いた校内を歩くのだけでも楽しいが、クラスの一員として、参加した気分になるから余計。
そう言うと、くすくすと笑った古泉君が貴女らしいですね、と返してきた。目が慣れ始めた彼の衣装姿。今にしてみればそれはやけにしっくり型に嵌っていて、やっぱり何をしても格好いいと、見つめていた目を彼から外す。無性に恥ずかしくなった。同時に、劣等感に襲われる。叶わない、と。変なの、彼は一つ年下なのに。わたしより何倍にも大人に見えた。

「貴女のウェイトレス姿、楽しみです」
「……誰にでもそういうこと言うんでしょ」
「まさか。興味を持った相手にしか言いません」

これは、ありがとうと言うべきなのだろうか迷った。自惚れるな、と言われそうだが残念ながらそれは出来そうにない。興味を持った、の範疇がどれほどのものかは分からないけれど少なくとも彼の中でわたしは、他の人より少し上に位置しているのだろうと考えると素直に笑うことが出来た。嬉しい。けれど、わたしは知っている。彼が、わたし以外の誰かを好きなこと。明確には知らないけれど時々その人を想ってかすごく優しい顔つきになることがある。わたしと話してても、一人で居るときを見かけても。あれはいつもと違う。恋する、表情。そしてその相手はわたしだという確証はない。でも。でも、

好き、なんだよなぁ。

「当日、暇あったら遊びに来てよ」
「ええ、是非」

そしてわたしは気付いている癖に自分からどん底に落ちようとするんだ。彼が一人でくるはずもない。隣にいるのはさて、誰だろう。

(もちろんそれはわたし以外の、誰か)

自分から蚊帳の外にいることをわざわざ自覚するなんて愚かだと思う。それでも、それでも彼がわたしを一時でも良いから見てくれる誘惑には勝てそうもない。