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*3Z

そりゃ大げさだろう、とアイスの棒をかじった総悟がこちらを訝しげに覗きこんできた。わたしのアイスはまだ、なくならない。そろそろクーラーが利きすぎたこの部屋でアイスを食べるのは苦痛になりそうだと思い始めて教室からベランダに飛び出る。そこから見た世界はいつもと一緒で、でも空だけは365通り×80年以上の内の一つ。記憶に細かく刻んだ。双子の雲が動いている。

「でも、あの子絶対総悟のこと、好きだと思う」
「でも俺は何も言われてねぇぜ?」
「でも、その内言われると思う」
「でも、現に」
「でもでも煩いね、うちら」

そうだね、とも言ってくれない総悟に笑って見せた。アイスが気温の変化に付いていけないようで、ぽたり、コンクリートの床に染みを残す。涙じゃないよ。アイスだよ。何にも言われてないのに弁解するのはわたしの昔からの癖だろうか、とちょっと感傷に浸ってすぐ、忘れた。どうでもいい、けど。もうすぐ授業が始まりそうだ。

「次は、ギンパチかーだるいなーまた糖尿の話とかだったら出なくていいかなぁ」
「さぁねぇ。そんなの授業始まってからじゃねーとわかんねぇや」
「そだね」

漸く食べ終わったアイスの棒を口に含みながら考え事をする。このベランダの壁に座り込んでいたらバレないかな、とか。

「ここに座ってたらバレねーかも」
「あ、わたしも同じこと考えてた」
「まじかぃ」
「まじ」
「ついでにその隣のクラスの子が俺を好きだってのもまじかぃ」
「それも大まじ」
「……」

昼休み、終わった。ギンパチは大分遅れて教室に来るから大丈夫か、と思いつつベランダの壁に座り込む。さっきアイスの染みが落ちた場所は避けて、結局、サボりかな。いやでも窓は閉まってるけど一応教室の隣にいるんだ、大丈夫だろう。

「結局サボりかい」
「どこまでも以心伝心とかなんか逆に怖い」
「……まじかよ」

本当に無駄な話が多いと思う。総悟といつも話すと、これだ。本題までが遠い道のり。そして結論は不透明。そんな生ぬるい関係に余裕ぶっこいてたから、焦ってたのかもしれない。今更蒸し返された隣のクラスの子の話題にちょっと苛立ちを感じた。変だな、わたしから切り出したのに。

「俺は別にそいつ好きじゃないんでねぃ」
「そっか、ならいいや」

それでわたしのことはどう思ってる?とは続けられない。どうせ結論なんて出ない。いつものことだったから、慣れたようにそれはそれ、で話題を終わらせたら珍しく二人の間に沈黙が流れた。これには慣れてない。アイスの棒を手持ち無沙汰にかじってみた。総悟が、それを真似してくる。いや、最初にかじってたのは総悟だったかな。

「んで、隣のクラスの子」
「えー、まだその話題?もうどうでもいいじゃん」
「どうでもよくねぇから言ってんでさぁ。それ聞いて、お前は何とも思わないんですかぃ」
「え、」
「俺は、軽くお前が嫉妬してくれたんじゃねぇかなって自惚れちまったんですけどねぇ」

ガラガラッと勢い良く扉の空く音がして、ギンパチが姿を現した。いつの間に来たのだろう、でもそれを思い出すことが困難に思えた。なぜなら、心臓が煩かったからだ。お前ら、ベランダは教室じゃありませんけどー!とか、イチャつくなら俺の見てないとこでしろよ!とか言ってくるギンパチを無視して総悟が教室に入ってくる。催促されて立ち上がったわたしを可笑しそうに笑った、奴の顔が頭にまだこびりついている。

絶対授業集中できない。以心伝心ならばわたしの気持ちに、大いに察しが付いてるんだろうな。ギンパチと総悟を交互に睨んで、クーラーの利いてる教室内に、足を踏み入れた。誰が戯言を。

結論は、出たじゃないか。