×小説 | ナノ







 ショーウィンドウに飾られたジュエリーを見て、更にそれに反射する自分の姿を見て、愕然とした。釣り合う釣り合わない以前にわたしは女ではない。そんな錯覚を起こすほどに、その姿は雄々しかった。畜生。嬉しくもなんともないや。

「せめてもっと胸があればまだマシだったかもしれないのに」
「ぶっ!……ちょ、少佐!いきなり何言いだすんですか!」

 盛大にコーヒーをぶちまけたハボック少尉は煙草の灰が落ちそうなのも気が付かないのか、呆然としたままわたしを見た。次に胸囲。そして、溜息。……殴ってやろうか。

「セクシュアル・ハラスメントで訴えられるかしら」
「いいいや、別に!別に俺は少佐の胸なんか見てませんけど!」
「いやーね、ホークアイ中尉って男らしい腕前なのにでも凛としてるから、わたしにもそういう二面性が欲しいなって思っただけなんだけど」

 面倒だからハボック少尉の言い訳はオールスルーした。あ、そ……ともう呆れしかないのか、灰皿に強引に吸殻を擦り付ける。カップに入ったコーヒー。いつもはくさいと感じる煙の匂いは、それに妙にマッチしていて笑えた。

「いきなりどうしたんですか。今まではそんなこと気にしてなかったじゃないスか」
「んー?こないだすっごい、もう未知なる出会い!って思うくらい綺麗なネックレスを一番街のジュエリーショップで見かけたんだけどね」
「大佐にねだったらどースか」
「……似合わないよ」
「そんなこと」
「だって、」

 頭の中で思い浮かべたあの、ネックレス。確かに値はそこそこ張るけど買えない値段ではなかったのに。綺麗だけど、きっと。似合わない。

「飾られたショーウィンドウに映った自分が、忌々しく思えて」
「買えなかったわけですね」
「まあね」
「じゃあ尚更じゃないですか」
「は?」
「自分じゃ買えないから、大佐買って〜って、ね?」
「……ハボック少尉、今の話聞いてた?」

 遠くでブラックハヤテ号が鳴く声がした。時計を見てびっくり。休憩時間はもう終わりそうだった。やばい、とだけ口に出して空になった使い捨てカップをごみ入れへ投げる。運良く入ったことに少し嬉しく思いながら、ハボック少尉に再び向き直った。

「今の話、大佐には内緒よ。話したら凍らす」
「イ、イエッサー」
「じゃ、執務戻るね」

 机に置いてあったファイル、書類その他もろもろを纏めたわたしはそれを両手で抱えて、走った。ああ、遅れたらまた何か言われそうだな。そんなことを考えながら。

*

「……大佐、今の話聞いてましたよね?」
「気付いていたか」
「そりゃ俺から見たら超見えやすいところにいますから」
「国家錬金術師ともあろう彼女は私の存在に全く気付いてなかったがな」
「勘弁してくださいよ。俺が言った、なんて少佐の耳に入ったら次の日、俺の命日ッスからね」
「案ずるな」
「ちゃんと、盗み聞きしてたって言っ……イエ、スイマセン」



ターコイズブルーはいつか

君の元に舞い降りるのはそう遠くない