×小説 | ナノ







 嫌なものを目撃してしまった。て言うかこんないつ人が通るかも分からないところで告白すんなよ。握り締めた100円が、使えわれる時は来るのだろうかと忌々しく自販機の前を睨みつける。丁度、尾行している探偵がターゲットを睨むのを同じような体勢で。くそう。
 男の方は同じクラスの御幸だった。で、相手は確か、隣のクラスで、学年でも可愛いって評判の子。タコよりも赤い顔してる。告白の台詞を聞いた訳じゃないから正確には言い切れないけどこんな場面、一目瞭然だ。
ああ、何が悲しくてカップルの成立なんて見届けなくちゃいけないんだ。か細い女の子の声は聞こえないけど、御幸の声は少し距離を空けたここからでも聞こえるほど、はっきりしていた。

「俺アンタには興味ねーからさ。ごめんな?」

 いの一番に呆れが出た。興味ないからさって、もうちょっと言い方とかない訳。あー。絶対相手の子泣くだろうなぁ。それか、怒り出すか。
 逆に清々しさを感じるほどの御幸の対応に呆れからくる笑いを零した。と、同時に相手の反応はどうだろうと興味本位で再び二人がいる方へ向いたら、御幸がすぐ傍に立っていたものだから驚いた。声は出なくても100円玉が飛んだ。飛んで、地に落ちた。なんか、わたしの心臓も似たような行動をしている。

「み、御幸さん」
「よ、何してんだこんなところで」
「……い、いや、自販機に用があったから」
「ふーん」

 あれ。いつもと同じ口調。冷静さ。別に良いんだけど御幸の態度が不自然に感じる。なんだろう。告白を受けた直後だって言うのにこの対応は。……あー、なんか、慣れ?なのかな。

「なんか落ち着いてるね」
「そうか?」
「慣れてんの」
「は?何に?」
「告白されるの」

 何気なく御幸の脇を通りすぎて自販機に100円を投入する。漸く君の出番が来たよ、さあて何を飲もうかな。フルーツオレ、コーヒー、カフェオレ、ミルクティー、うーん……。

「まぁ、一々考えてたら面倒だしな」
「うわー性格悪ー」
「はっはっは、俺が?」
「うん」
「そういうお前も性格悪ぃじゃねーか」
「わっ、勝手にボタン押すな」
「もう遅ぇよ」

 ガタン、とわたしの100円がわたしの意志とは反したボタンで消費された。後ろから伸びてきた御幸の手が、見事に考えていた選択肢以外のものを押していて、唖然とする。はっはっは、愉快そう。取り出し口から見えた白いパッケージに顔面蒼白になりそうになった。

「あんたやっぱり性格悪い……わたしが牛乳単体嫌いって知っててこの仕打ち?」
「はっはっは、覗き見してた罰って奴だな」

 気付いてたのかよ。前かがみになって取り出した物は相変わらず白い。あー、白い。白いパッケージが眩しい。なんて現実逃避しても変わらないものは変わらない。

「気付いてたんだ」
「見えてた、ていうか自分から言ったじゃん。告白云々。見てたってことだろ」
「……おー失言したー」
「お前探偵に向いてないよな」
「向き不向きもなにも探偵なんか目指さないし」

 しゃーなしストローを取って、差した。ありったっけの憎しみを込めて。一口飲んで、げんなり。やっぱり、好きな味じゃない。
 ベンチが空いてるのに座りもせずわたしと御幸は自販機の前に並ぶように話す。一番眠たい授業はどれかとか、野球の話とか、エトセトラ。
 そんなに長い時間ではなかった。けれど気が付いたら買ったばかりの牛乳がなくなり掛けてて驚いた。慣れてしまった舌がまた一口、牛乳を喉に送る。喉渇いてたからかな。
 下品にも最後の最後まで飲み干す音を鳴らせた後、すぐ横のゴミ箱に投げたら、外した。

「ノーコンだな」
「いやわたし野球部じゃないし」
「野球部じゃなくてもそれはヤバイだろ」
「まじで?」

 外して地面に落とした牛乳のパッケージを拾いながら、何となくさっきの出来事を思い出していた。御幸の飄々とした態度が、さっき起こった告白のシーンをまるで夢なのだと言わせているようで寂しかった。もし。もし、わたしもこいつにさっきの女の子みたいに好きだと、自分の気持ちを打ち明けてしまえばきっと同じ対応になるんだろうな。
牛乳をゴミ箱に今度はちゃんと捨てた後で、何気なく御幸の隣に戻って、話を蒸し返したくなる気持ちを隠した。
 例え二人きりでも、告白とか、そういう現場に見られないように笑いあって。

「あれか、牛乳買わせたのはもっと胸をふくよかにしろってことか」
「冗談言うなよ、俺はまな板派だ」
「いやそれもどうよ」
「はっはっは」
「じゃ、身長?」
「まさか。俺好きな奴が背高いの許せない主義だから」
「へー、御幸の好きな人は大変だねー」
「……」





なにもない
ただそれだけで
構わない