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「毎度ー」

じゅりさんの元気な声と共に開け放たれた比泉生活相談所の扉の先。見知った顔がいるかと思えばそこはガランとしていて、奥に設置されたソファに座る一人の男しか室内にはいなかった。その後ろ姿からすぐにある人物を連想する。

「恭助さん」
「じゅりさん、と……名前か」
「珍しいねー、一人なんて。ヒメちんは?」
「秋名と出掛けましたよ」
「恭助さんを置いて?」
「俺はお嬢様に留守を任されたからな」
「へえ。二人……もしかしてデー」
「元老院だ」

私の冗談半分の言葉を遮って出た単語にじゅりさんは目を見開いた。そして私同様へえ、なんてさして興味もないような返答をする。それにしても恭助さんも必死だなぁ。彼の不機嫌そうな顔を見ては、私は笑いを堪えるのに大変だった。大切だもんね、お嬢様が。

「あ、じゃあせっかくだから」

秋名くんがいないことで、じゅりさんと私の目的はなくなってしまった訳だけど。提案するようにじゅりさんが手を叩いて、私と恭助さんを交互に見やる。なんか、やな、予感。それは恭助さんも同じのようでさっきよりも表情をひきつらせながら恐る恐る口を開いた。

「何だ……?」
「恭ちゃんの検診しよっか!名前の練習も兼ねて」
「えっ!?」
「お、俺に実験台になれってことか!?」
「いいじゃん。減るもんでもないし。さ、そうと決まれば採血からやろっか」

思いっ切りそれ、減りますって!血とか!血以外にもなんか減りますって!まだまだ医師の勉強を始めて間もない私がそんなんやって良いんですか!

叫びたかった。けど叫べなかった。青い顔した恭助さんは私がパニックを起こしている間にじゅりさんに何やら脅されたらしく、静かにしている。鞄の中から医療器具を出し始めたじゅりさんを横目に、私は静かに恭助さんに向かって呟いた。

「……何かあったら、ごめんなさい」


(そんな更に顔を青ざめなくてもいいじゃん!)