×長編 | ナノ
素直じゃねぇの。
自分で言って気付かねぇもんなの? 俺にはよく分かんねーけど、
『安心したわ』
はっきり言って、心から安心したような顔には見えなかったけどな。 それは言えずに、ただ無言でそれを見ることしか俺には出来なかった。 チャイムが鳴って、俺は御幸に何も言わずに自分の席へと戻る。 帰る際に御幸の机に乗っていた英語の教科書を見て、舌打ちを一つ落とした。 次は数学だっつーの。 そんなことも忘れるほど、ダメージでけぇくせに。
ばかじゃねぇの。
俺には理解出来ない。 怖がるほどの恋愛なんて、体験したことも体験してぇと思った事もねーから。 けど、そういう相手がいることは、ある意味すげーことなんじゃないかって思えてくる。 怖がってもそばにいてぇとか、ある意味奇跡だし。 その重圧で御幸は別れを切り出したんだよな、簡単にではあるが今までの経緯を思い出しては整理してみる。 席に着くと俺は担当教師がまだ来ないことを良いことに後ろの席に顔を向けた。
「……何?」 「お前ら付き合い始めた?」 「お前、ら?」 「前川とお前」 「あー……」
どう答えるべきか迷ってる時間がもどかしい。 これはよくある、恥ずかしくて付き合ってると言えないって奴なのかどうなのか。 その間も俺は名前の顔の変化を少しでも読もうと頬杖を付きながら、返事を待った。
「まだ付き合ってはいない」 「まだ?予定でもあんのかよ」 「……そんな、感じかな」
ふーん。 進み始めたんだって、御幸は納得したような声で言ったけど、俺は。 俺はなんか、釈然としなかった。
窓側の席で、俺と同じく頬杖をついたような格好をしている男の後姿を見る。 目の前の女と明らかに違うオーラに、思わず苦笑しか零れなかった。
自業自得って言えれば楽なんだけどよ。 お前等どっかで道間違えてんじゃねぇの?
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