×長編 | ナノ



夜が、長く感じる。

布団を被って、もうどれくらい経ったのだろうか。
何分、何時間。
手持ち無沙汰に開いた携帯は何の変化もなくて、世界とわたしが隔絶されたような感覚に陥らせるものでしかなかった。
……なんて、少しのことでも大袈裟に感じてしまう。
こんなにわたしは臆病だったっけ。

つい最近まで明日が来ることを楽しみにしていたのに。
学校には友達がいて、好きではないけど授業があって、楽しい時間がたくさんあって、何より。

何より、あいつがいたはずなのに。

大切な時間の中の一つが欠けてしまっただけなのに、こんなにも苦しいのはきっと、

欠けてしまったのが、あいつの存在だからだろうな。



『なぁ』

筆談が始まったのは、御幸からだったと思う。
何の授業の時間かなんてもう、忘れてしまった。
一年の頃だから教科の担当も今とは違うし、思い出すのも面倒だ。

突然ノートを差し出されたかと思うと、その一言だけ。
驚いたように御幸を見たわたしに、奴は悪戯した子供みたいな笑い方して。
きっとあの頃から、わたしはあいつを好きになり始めていたんだと思う。

『なに?』

なぁって書かれてたらそれ以外答えが見つからないだろう。
国語には何通りもの正解があるって前に先生が言ってたけど、この場合は一つしかないんじゃないかって疑いたくなるくらい、それしか浮かばなかった。
先生が黒板に背を向けたタイミングを計らって、御幸にノートを返す。
そのまま奴の反応を見ていたわたしに気付いたのか、御幸はこちらを一度向いて、それからノートにペンを走らせた。

『意外と字、きれーなんだな』
『はあ?』
『いや、性格ガサツだから』
『ケンカ売ってんの』
『一つ百円でどう?』
『高い』

当り障りのない、でも、すごい楽しい一時だった。
いつもしてるわけじゃない。
本当に、ごく偶にだ。
だけど、やがて筆談がわたしの中での微かな楽しみに変わっていったのは自分でも自覚していた程だった。

時には次の日にあいつからノートが回ってくるだろうかと楽しみにして眠りについたこともあった。
夜が、楽しみでいっぱいだった。
朝までが本当に、短かった。

それなのに。

枕に埋めた顔が、涙で徐々に濡れていくのが分かる。
この部屋には誰もいないはずなのに、聞かれたくないと必死に口を押えて。

わたしは泣いた。